「日本一貧乏な観光列車」が人気を集めるワケ 旅行会社のノウハウと鉄道好きの熱意が融合

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窓を開けて物を買い、代金を渡す。上磯駅での立ち売りの様子(筆者撮影)

永山によると、上磯商店街のメンバーは当初ホームで棒立ちだった。ところが、乗客から「何を売ってるの?」と聞かれて説明を始めると、面白いように売れたという。それから積極的に窓際へ売り込みに行くようになり、次は何を売ったら喜ばれるかと各自が工夫するようになったそうだ。ホームに立つお店は一定していないが、これは長続きさせるために無理のない形での協力をお願いし、商店会長がまとめ役となって毎回数店が必ずホームに立つようにしているためだ。

上磯駅を発車すると、約8分で矢不来(やふらい)信号場に到着する。通常、貨物列車が列車交換のために使う信号場で、旅客列車で停車するのはこの「ながまれ海峡号」だけだ。その貴重さを鉄道好きは評価するが、それ以外の乗客も、函館湾の先に函館山が見える景色を堪能する。28分もの停車時間があるが、その間に車内では添乗員が漁り火用の大きなランプを見せて歩くとともに、駅長帽を持って記念写真の撮影に応じている。

17時45分に到着する木古内駅では、新幹線開業に合わせて駅前にできた「道の駅 みそぎの郷きこない」に立ち寄る。店内に開設している「コッぺん道土(こっぺんどっと)」というパン屋さんの塩パンは人気で、函館駅での集合時には参加者に注文書が配られる。通常は18時閉店だけに、予約をしておかないと入手ができないのだ。木古内産のコメを使った、同地でしか買えない幻の地酒「みそぎの舞」も売っている。

開拓の歴史がつなぐ味

「道の駅 みそぎの郷きこない」で買い物をしている間に、自席に用意されていた「どうなんパスタセット」(筆者撮影)

お土産と飲み物を調達して列車に戻ると、席には「どうなんパスタセット」が用意されていた。道の駅の一角で営業しているレストラン「どうなんde's」製で、同レストランは山形県鶴岡市で有名レストランを開設している奥田政行シェフが監修している。木古内町は明治時代に鶴岡市のある庄内藩の人々が開拓した歴史があり、前述の「みそぎの舞」も醸造は鶴岡市の酒造で行っている。このように両市町がいまも歴史的つながりを大切にしているのだ。

木古内駅からの復路出発は18時22分なので、乗客はすでにパスタセットを食べ始めている。内容は旬な食材を使ったものとするため、乗車のたびに変わるそうだ。名物の塩パンも1つ付いてくる。メニューが変わるのは、リピーター獲得にも役立っていることであろう。

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