「日本一貧乏な観光列車」が人気を集めるワケ 旅行会社のノウハウと鉄道好きの熱意が融合

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「北海道鉄道観光資源研究会」の活動を代表する711系保存車(筆者撮影)

北海道鉄道観光資源研究会は、数多くの鉄道関連保存・再生事業を手掛けている。中でもよく知られているのは、岩見沢市郊外のレストランを併設した農地に保存した北海道初の電車711系だろう。日本旅行は、北海道産の優れた農作物を買い取り、取引がある全国の宿泊施設などに販売する「あぐりツーリズムネット」という会社を立ち上げ、711系を保存している農地のレストランとも取引をしているが、同社の代表取締役も永山だ。

永山は打ち合わせを進める中で、北海道鉄道観光資源研究会ではなく日本旅行としてかかわり、観光列車を走らせることが望ましいと考えるようになった。

日本旅行であれば企画列車を走らせ、ツアーを販売するノウハウをもっている。さらに、同社は他社にない独自の企画を推奨しており、その方針のもとで社内の鉄道好きがこだわりのツアーを企画実施する「鉄道プロジェクト」が発足し、これまでにも数々のユニークな鉄道ツアーを全国で展開してきた。永山は、その一環で企画を進めるのが得策ではないかと考えたのだった。

何よりも沿線の協力が大事

永山は、観光列車の内装はもちろんのこと、それ以上に沿線の協力要請に心を砕いた。

まず最大の問題はおカネがないことだった。道南いさりび鉄道は、全線37.8kmのうち東部の五稜郭駅―上磯駅間8.8kmこそ函館への通学圏だが、それより西の上磯駅―木古内駅間の列車はわずかに2時間に1本の普通列車だけだ。それでも廃止されなかったのは、北海道の主要産業である農産物などを積み、青函トンネルを通じて本州とを行き来する貨物列車が多数走っているためだ。つまり、貨物列車のために存続した鉄道であり、もともと旅客需要は並行する路線バスで十分なのだ。

それだけに、開業前の試算では10年間で16億円の赤字が発生するとされた。観光列車で稼ぐことを期待されつつも、そのための仕組みづくりに費用をかけられない。この厳しい制約の中で魅力発信をするには、沿線住民の協力が欠かせなかった。

地元自治体を通して集まってもらった沿線住民への説明会では、日本旅行本社から鉄道プロジェクトのメンバーも駆け付けて、全国の観光列車事情をはじめとした現状解説をした。さらに永山は、道南いさりび鉄道の沿線ならではの魅力を観光客に伝えたいと力説した。

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