しかし、本邦機関投資家の動きはさておき、少なくとも前者については現在の状況には当てはまらないと思われる。全米先物取引委員会(CFTC)が公表する投機筋による米10年債の持ち高は、むしろ、リーマンショック前の2007年12月以来最大のロングポジションに傾いているのだ。これが巻き戻され10年債が下落した場合には、相当程度大きな動きになると想定できよう。
いずれにせよ結果として米長期金利は上昇しにくくなっており、それゆえに米株式市場は上昇している。つまり目下の環境は、「米株価が上昇しているにもかかわらず、長期金利が低迷している」のではなく、「米長期金利がなかなか上がらないので、米株式市場はこれを好感し、株価が上昇している」と解釈すべきだろう。景気はほどほどに良好だがインフレは緩慢で、利上げも緩やかにしか行われない、「熱すぎず、冷たすぎず」の環境が織り成す、いわゆる「適温相場」、通称「ゴルディロックス相場」が続いているのである。
米長期金利が「日米金利差→ドル円」を決定
このゴルディロックス相場は今後しばらく続くだろう。年後半に緩やかにインフレ率が上昇してくれば、長期金利も上がり始める可能性はある。そうなればドル円相場も緩やかに上昇しよう。日米の10年債利回り格差とドル円相場の相関性は、昨年6月から今年3月まで非常に高く、この間の相関係数は0.93まで上昇している。ただ、3~4月は、トランプ政権の政策の実効性に対する懸念、地政学リスクの高まり、仏大統領選に向けた思惑、ロシア疑惑の浮上、などが複雑に絡み合う中、日米金利差の縮小以上にドル円では円高が進行した。5月下旬以降は再び相関が高まっており、足元の日米10年債利回り格差が2.0%でドル円が1ドル=109円台後半というのは、違和感のない水準である。
日銀が10年債利回りをゼロ%付近に維持するイールドカーブ・コントロールを実施する中、米10年債利回りの動向が日米金利差とドル円の関係を決める傾向にある。今後米インフレ率が緩やかに上昇し、米10年債利回りが2.4~2.5%程度まで緩やかに戻る場合には、ドル円は118円程度まで上昇が見込めよう。米10年債利回りが今年3月に2.6%台をつけていたことを踏まえると、可能性は十分にあると見ている。
注意したいのは、可能性は極めて低いものの、仮に米国のインフレが急速に進み、米長期金利も大幅に上昇する、あるいは上述した米国債ロングポジションが調整によって急落し、長期金利が急騰するなどのケースだ。その場合には、これまでとは逆に、米株価が急落する可能性がある。この場合、上述したメインシナリオと異なりリスクオフとなるため、ドルは新興国通貨などに対して上昇するものの、ドル円では円高が進行する公算が大きい。
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