教科書的にいえば、リスク資産に資金が向かえば、安全資産は売られるため、米国債は下落、米長期金利は上昇となり、米ドル高に向かうはずであるが、足元はなぜか「米株高・米長期金利低下・ドル安」となっている。
昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、今年3月上旬までは、いわゆる「トランプ・ラリー」に乗って米株価と米長期金利はパラレルに上昇した。しかし、その後も米株価は上昇し続けたにもかかわらず、米長期金利は低下。この間、2016年12月と今年3月、6月と、FOMCで3度も利上げが決定されているのに、米10年債利回りは3月13日につけた2.6%台から足元の2.1%台まで低下している。
はたして市場が楽観的すぎる、つまり「米株高」が歪んだ現象なのか、あるいは「米長期金利低下・ドル安」のほうが誤っているのか。いずれにせよどちらかの歪みはいずれ修正されるだろう。
米長期金利はなぜ低下しているのか
もちろん、利上げ後に長期金利が低下するケースもある。それは金融引き締めによる将来の景気悪化が市場に織り込まれた場合で、短期金利は上昇するが、長期金利は横ばい、あるいは緩やかに低下し、長短金利のフラットニングが起こる。通常、利上げサイクルを終了したときの政策金利と、10年債利回りはほぼ同様の水準となる。FOMCメンバーによる政策金利予想の中央値を見ると、彼らは2019年にかけて3.0%まで緩やかに利上げを継続していくことを想定している。
これを考慮すれば、米10年債利回りも将来3.0%前後まで上昇してもおかしくない。しかし、足元は長期金利が上昇どころかむしろ低下している。これを見るかぎり、市場参加者は景気をもっと悲観的にとらえており、利上げ終了時の政策金利が3.0%までは到底及ばないばかりか、より早いタイミングで景気減速が始まると見ているのかもしれない。こうした見方が米長期金利低迷の第1の背景に挙げられよう。
第2の背景には、期待インフレ率の低迷が挙げられる。6月14日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい食品とエネルギーの価格を除くコア指数が前年比で1.7%上昇と、4月の同1.9%から低下した。今年は1月の同2.3%をピークにコアCPIは低下が続いている。足元の物価の低迷に加え、賃金の伸びが緩慢であること、トランプ政権の政策運営能力に対して不透明感が高まり、減税やインフラ投資によるインフレ加速への期待が一気にしぼんでしまったことなどが、期待インフレ率が低迷している要因といえよう。
第3の背景としてよくいわれることは、ポジションの傾きや本邦機関投資家の動向など、債券市場の需給の問題である。上述したトランプ・ラリーの際に構築された米国債のショート(売り)ポジションがまだ残っているのではないか、あるいは、長引く日本銀行のイールドカーブ・コントロールにより、利回りの高い米国債への本邦機関投資家からの需要が高まっているのではないか、などの観測がある。
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