異色対談!「村上世彰氏vs伊藤邦雄教授」 ROE8%以上達成で日本を変えろ
村上:私が昭栄への敵対的買収や東京スタイルとのプロクシーファイト(委任状獲得競争)を手掛けたことで、「株主は経営者に敵対的な存在」という固定観念を強めてしまったのかもしれない。伊藤レポートは「ROE8%」と数値目標を示したことで、多くの日本企業の経営者に衝撃を与えた。
伊藤:非常にオーソドックスなメッセージは「資本コスト(投資家が期待する最低限のリターン)を上回るROEを上げてください。そうしないと企業価値の創造にはなりませんよ」というもの。「これがいい」という委員と、「いやそれではインパクトがない。具体的な数字を出しましょう」という委員がいて、数値目標を最終報告書に盛るかどうかで、委員会の最後のほうで緊迫した場面があった。
村上:ただトヨタ自動車やソフトバンクグループは例外的に達成しているが、(自己資本という分母の大きい)多くの日本企業にとってROE8%の達成はなかなか「しんどい」目標なのでは。
伊藤:伊藤レポートを公表した後もISS(Institutional Shareholder Services。議決権行使助言会社の1つ)は、ROE8%ではなく、同5%を株主総会で議案に賛成するかどうかの基準にしている。それは、8%基準を採用したらかなりの数の会社に「反対すべき」と助言しなければならなくなるからかもしれない。
リーマンショックが日本企業に残したつめ跡
――最新の『会社四季報』(2017年3集)では、ROE5%未満が1236社、同8%未満が1939社。つまりROE5%なら3分の2が「合格」ですが、8%なら過半が「経営者失格」です。
村上:伊藤先生が言うようにRすなわち「稼ぐ力」を上げるのも大事だが、私はROEを上げるために分母のE、すなわち自己資本を減らすのも大事だと思う。内部留保をしすぎた結果、自己資本は日本企業の全社合計で約500兆円規模に達している。これだけのおカネが企業内に滞留しているというのは、貯めすぎだと思う。500兆円のうち2割か3割、100兆〜150兆円は減らしていいだろう。それだけのおカネが社会に回れば、経済全体に良い資金循環が生まれるのではないか。
2008年のリーマンショック直後、どの国でも企業の配当額は減った。海外では2、3年経つと株主還元比率が急激に高まった。ところが日本はそうではない。
伊藤:リーマンショックが日本企業に残したつめ跡は依然大きい。「銀行が貸してくれなければ破綻する」と当時の取締役会での緊張感はすごかった。それで内部留保をますます積み増すようになった。
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