異色対談!「村上世彰氏vs伊藤邦雄教授」 ROE8%以上達成で日本を変えろ

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伊藤邦雄(いとう くにお)/1951年生まれ。75年一橋大学商学部卒業。92年一橋大学教授。2002年商学部長。04年副学長。三菱商事や東京海上ホールディングスなどの社外取締役を歴任。現在、東レ、セブン&アイホールディングス、住友化学、小林製薬、曙ブレーキの社外取締役。13年経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」座長。14年「伊藤レポート」公表で時の人に。東京証券取引所・企業価値向上表彰制度座長等。15年特任教授・ CFO教育研究センター長(撮影:梅谷秀司)

村上:私が昭栄への敵対的買収や東京スタイルとのプロクシーファイト(委任状獲得競争)を手掛けたことで、「株主は経営者に敵対的な存在」という固定観念を強めてしまったのかもしれない。伊藤レポートは「ROE8%」と数値目標を示したことで、多くの日本企業の経営者に衝撃を与えた。

伊藤:非常にオーソドックスなメッセージは「資本コスト(投資家が期待する最低限のリターン)を上回るROEを上げてください。そうしないと企業価値の創造にはなりませんよ」というもの。「これがいい」という委員と、「いやそれではインパクトがない。具体的な数字を出しましょう」という委員がいて、数値目標を最終報告書に盛るかどうかで、委員会の最後のほうで緊迫した場面があった。

村上:ただトヨタ自動車やソフトバンクグループは例外的に達成しているが、(自己資本という分母の大きい)多くの日本企業にとってROE8%の達成はなかなか「しんどい」目標なのでは。

伊藤:伊藤レポートを公表した後もISS(Institutional Shareholder Services。議決権行使助言会社の1つ)は、ROE8%ではなく、同5%を株主総会で議案に賛成するかどうかの基準にしている。それは、8%基準を採用したらかなりの数の会社に「反対すべき」と助言しなければならなくなるからかもしれない。

リーマンショックが日本企業に残したつめ跡

――最新の『会社四季報』(2017年3集)では、ROE5%未満が1236社、同8%未満が1939社。つまりROE5%なら3分の2が「合格」ですが、8%なら過半が「経営者失格」です。

村上世彰(むらかみ よしあき)/1959年生まれ。83年東大法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。99年M&Aコンサルティング(通称村上ファンド)設立。昭栄、東京スタイル、阪神電気鉄道、ニッポン放送へ投資。2006年インサイダー取引容疑で逮捕。11年執行猶予付き有罪判決確定。現在はシンガポールに在住。自己資金で海外中心に投資活動を展開。6月21日には自著『生涯投資家』が発売される

村上:伊藤先生が言うようにRすなわち「稼ぐ力」を上げるのも大事だが、私はROEを上げるために分母のE、すなわち自己資本を減らすのも大事だと思う。内部留保をしすぎた結果、自己資本は日本企業の全社合計で約500兆円規模に達している。これだけのおカネが企業内に滞留しているというのは、貯めすぎだと思う。500兆円のうち2割か3割、100兆〜150兆円は減らしていいだろう。それだけのおカネが社会に回れば、経済全体に良い資金循環が生まれるのではないか。

2008年のリーマンショック直後、どの国でも企業の配当額は減った。海外では2、3年経つと株主還元比率が急激に高まった。ところが日本はそうではない。

伊藤:リーマンショックが日本企業に残したつめ跡は依然大きい。「銀行が貸してくれなければ破綻する」と当時の取締役会での緊張感はすごかった。それで内部留保をますます積み増すようになった。

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