仏下院選のマクロン派「圧勝」で何が始まるか フランス人の「政治への期待」は薄くなった
加えて、こうした政党にありがちな内紛が持ち上がってしまった。この政党は、父親ジャン=マリ・ルペンが創立して以来の排外主義的主張に加えて、マリーヌが党首となってから社会福祉、民主化、共和主義を標榜することによって党勢を拡大してきた(前掲『フォーサイト』拙稿)。ところが、大統領選挙直後に旧来の支持者からの現体制に対する批判が湧き起こる。それは現在の路線を主導する、フロリアン・フィリッポ副党首に対する批判だった。
中でも大きな衝撃は、ジャン=マリ・ルペンの側にいつもいた孫娘のマレシャル・ルペン下院議員(マリーヌ・ルペンの姪)が、自分は6月の選挙には出ないと声明したことだった。彼女はフィリッポ副党首の「普通の政党」路線反対派の急先鋒だった。さらに火に油を注ぐ格好となったのが、フィリッポが自分の政治グループ「愛国者たち」を組織し、党内での勢力固めに入ったことだった。内紛の中で、マリーヌ・ルペンは選挙に向けた集中力を欠いた。
外から見ていると、ポピュリスト一流の感情的な内紛劇にしか見えなかった。筆者はもともと、6月の選挙の後に勢力が衰退する可能性は大いにあるとみていたが、大統領選挙終了直後の段階でこの体たらくで、選挙運動をまとめきれなかったというのが実情だ。加えてこの政党は資金力に乏しく、大統領選挙で資金が枯渇してしまったという悲哀もある。3月にマリーヌ・ルペンはモスクワでプーチン大統領と1時間半会談したが、大統領選の忙しい最中に訪露した目的は、実は選挙資金の無心だったともいわれているほどだ。
それでもマクロン支持は「相対的」でしかない
他方、極左FIにとっては棄権率が高かったことが災いした。今回の選挙の棄権率は51%に上り、これまでの最高である。FIはFNと並んで、庶民を代表する党として注目されていた。だが今回の選挙では、多くの支持者の動員に成功せず、大衆政党特有の組織力の弱さが露呈した形となってしまった。
この棄権率の高さは、大統領選挙でも見られたような、国民の既成政党への不信と政治離れを再確認したことになる。有権者は「相対的」にマクロンを支持したに過ぎず、フランス政治そのものに対する期待が小さくなっていることがうかがわれる。
少し意地悪な数字であるが、棄権・無効票に投票事前未登録などを加えると、実際の投票率はもっと下がる。マクロン派が30%以上の支持率を得ているとしても、実際にマクロンに投票した人は有権者の10人に1人程度、という見方である。これは単なる数字のマジックであるが、表向きの大勝利の裏で、国民の政治離れは歴然としている。
マクロン政権が心機一転、世代交代と政界再編成を目指すのは確かだ。それは候補者の平均年齢が49歳ということにも表れている。選挙制度が変わって兼職が禁止されたために、市長や地域県議会議長にとどまり、国会議員の再立候補をあきらめた現職議員が200名にも上るといわれる一方、マクロン派の候補者の半数は政治経験のない人たちだといわれる。マクロン大統領もそうだったように、今回が初めての立候補だという候補者も多い。
マクロンに求められている新たな改革は、まずは人心の転換、本当の意味での政治の風を起こすことである。
(文:渡邊 啓貴/東京外国語大学大学院教授)
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