仏下院選のマクロン派「圧勝」で何が始まるか フランス人の「政治への期待」は薄くなった
これに対して保守派共和党/民主独立連合は、21.5%の得票率で獲得議席数は85~125議席程度にとどまると予想されている。現有勢力が229議席だから、半分以下になる可能性もある。
しかし最も大きな打撃を受けたのは、社会党だった。党史上最悪の結果だった。大統領候補のブノワ・アモン、ジャン=クリストフ・カンバデリス社会党第1書記ほか有力議員の何人もが、すでに第1回投票で敗退。エコロジストの看板であったセシル・デュフロ党首も同様の憂き目にあった。社会党・急進左派・そのほかと併せた得票率は10.2%で、現有議席292議席から20~35議席にまで転落する。
ただ社会党の場合、マクロン自身が社会党所属の経験があり、大統領選挙でも陰に陽にフランソワ・オランド前大統領のサポートがあった。大統領再選の意欲が強かった同氏が党内で孤立したため、お気に入りのマクロンの陰の立役者になったという「オランド陰謀説」が、大統領選挙キャンペーン中に流れたこともあった。マクロン周辺には、かつて社会党の重鎮で、大統領候補ナンバーワンといわれながら婦女暴行スキャンダルで失墜したドミニク・シュトラスカーン前IMF専務理事のブレーンやスタッフが、かなりいるといわれている。
そもそもLREM自体が、社会党右派の政党といえなくもない。あえていえば、筆者は中道寄りの「新社会党」だと考える。今回の国民議会選挙でのマクロン派の支持基盤は、前回選挙での社会党の支持基盤が大多数で、そこに保守派の穏健派が加わったというのが実情だからだ。
極右と極左は伸び悩んだ
意外な結果となったのが、マリーヌ・ルペンの極右FNと、極左ジャン=リュック・メランション率いる「不服従のフランス(FI)」の伸び悩みである。いずれも大統領選挙では台風の目となり、国民議会選挙での躍進が見込まれたが、得票率はFNが約13%台、FIは11%に留まった。大統領選挙第1回投票ではそれぞれ約22%、19%を得ていたが、その勢いを持続することはできなかった。予想獲得議席数はFN1~5議席、FIは10議席台と見込まれている。
5月の大統領選挙直後、FNの選挙対策委員長を務めるニコラ・ベイ党幹事長は、「5月7日、マリーヌ・ルペンは45選挙区で50%を超えた。これらの選挙区では勝利すると思う。そのほかの70選挙区でも45~50%を獲得した。……この成果は6月に大量の愛国的な(FNの)国民議会議員を選出させることになるだろう」と豪語していた。
どうしてFNの勢いは止まったのであろうか。第1に、大統領選挙で第2回投票に残ったとはいえ、その結果が惨敗であったことが支持者を大いに落胆させた。筆者はかねてより、FNの今後の命運は、大統領選挙に勝てないまでも第2回投票に残るか、残っても面子の立つ負け方をすることだ、と繰り返し述べてきた(拙稿『フォーサイト』=「『脱悪魔化』した仏極右『国民戦線』の台頭とジレンマ」2015年4月6日、『エコノミスト』=「誰が極右ルペン氏に対抗できるか――左右対立の政党制度維持が焦点」2016年12月20日)。
ルペンは、FNがずっと市議会を握っているヘニーヌ・ボーモン市の選挙区から立候補することになったが、その発表は遅れた。大統領選挙が終わって10日ほども彼女は沈黙を守っていたからだ。「マリーヌは疲れている」とまで『フィガロ』紙は書いた。