安倍首相、財政再建の政策目標を「すり替え」 「高い成長率」と「日銀緩和の継続」を頼みに?

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問題は、成長率が金利を上回る状態が実現可能かどうかだ。過去の長期金利と名目成長率の実績と、内閣府が今年1月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」を併せて見ると、「試算」の想定がいかに異例であるかが一目瞭然だ。

成長率が金利を上回る事態は過去には1980年代後半のバブル期以外に存在しない。ところが、内閣府の「経済再生ケース」では13年度から22年度までこうした状態が10年間続くことになっている。

日本総合研究所の湯元健治・副理事長は「今は日本銀行が金利を低く抑えているが、成長率より金利のほうが低いのは異例な状態。PB目標が外されると、金融緩和や経済成長に頼る計画になりかねない。さらに、本当に怖いのは20年以降に起こる社会保障費の膨張への財政的な手当てがゼロであることだ」と指摘する。

奇策に頼る安倍政権

昨年以降、米国からクリストファー・シムズ教授をはじめノーベル賞級の大物経済学者が来日し、「インフレを起こせば財政再建は可能」などと語った。苦難に直面すると非現実的な解決法にすがってしまうのは人間の性(さが)なのかもしれないが、舶来の奇策にばかり頼ってはいまいか。

憲法改正、共謀罪法案に、「PB黒字化の放棄」が「ご聖断」では軽すぎる。地道で不人気な課題に着実に取り組めない政治は、ポピュリズムそのものだ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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