野党は「共謀罪」審議を「政治ショー」にするな 金田法相でなく、官僚から問題点を引き出せ

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小泉内閣あたりから政権の取り組む最重要課題への対応は、首相や閣僚の影響力が増していることは事実だが、それは一部であり、多くの政策や法案は依然として官僚が企画立案し、法案の形にまとめている。

国会対応になるとさらに変化は乏しい。野党議員の質問通告を受けて、各省の担当者たちは深夜、未明まで答弁案を作成し、翌日、委員会が始まる直前に大臣にその内容を説明する。政策通の議員ならともかく、年功序列で起用された「伴食大臣」らにとって、国会答弁は試練の場である。にわか勉強で委員会に臨んでも満足な答弁はできない。官僚の用意した答弁案を棒読みするが、応用は聞かないので、大臣席の後ろに控える秘書官らに耳打ちしてもらうしかない。最後は質問とは無関係なことをしゃべったり、話をそらしたり、意味不明のことを言ったりして質問者をあきらめさせるしかないのだ。

追及する野党側は、国会を法案審議だけでなく権力闘争の場と考えている。官僚相手に法案の細部をまじめに追及しても世の中からは注目されない。それよりは能力のない大臣から失言や暴言を引き出し、うまく辞任に追い込むことができれば、政権のイメージダウンにつながるというわけだ。つまり国会は「政治ショー」の場であり、メディアもしばしばそれに乗せられている。その結果、多くの法案が無傷のまま成立している。同時に、こうした手法では野党の政権担当能力が高まるわけもなく、また、野党に対する国民の信頼感が増すわけでもない。

官僚から法案の重要な問題点を引き出せ

では、どうすればいいのか。発想を180度転換して、答弁能力のない法相に発言は求めず、官僚に対して徹底的に、体系的に、あるいは逐条的に質問をぶつけ、法案が持つ問題点をクリアにするとともに、成立後の法執行について制限をかけざるをえなくなるような答弁を引き出せばいいのではないだろうか。

衆院法務委員会では、弁護士出身の枝野幸男氏ら一部の議員が、「共謀」の定義をただすなど、官僚を相手に専門的知識や経験を背景に鋭い質問をしている。

実際、この法案は「プライバシーに関する権利の国連特別報告者」のジョセフ・カナタチ氏が安倍晋三首相に送付した書簡で指摘しているように、「計画」や「準備行為」などの定義があいまいで、テロや組織犯罪とは無関係な範囲まで法律が恣意的に適用されるおそれが否定できない。また、プライバシーの保護策などの規定もない。法相発言の揚げ足取りに時間を費やした結果、問題点の多い法案がそのまま成立してしまったのでは、国会の存在意義はなくなってしまう。

閣僚答弁の揚げ足取りに一生懸命な政党に対して、国民が信頼を寄せることはできない。自民党に取って代わることのできるような政策能力や統治能力を持つ政党であると評価されるためにも、野党は大胆に発想を転換すべきだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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