政治家任せじゃなく、国民投票で決める!
――EUに加盟しないことは政府のみではなく、国民投票によって決定されたと聞きます。どういうシステムなのですか?
ピドゥさん:スイスはダイレクトデモクラシー(直接民主主義)システムです。国全体で何か変えたいことがあるときには、10万人の署名を集めて政府に提出します。そうすると政府が投票を行わなければいけません。県で変える内容であれば、県によって異なりますが1万人ぐらいの署名です。たとえ議会が決めたことでも5万人のNOという署名を集めれば覆されます。
EUに加盟するかどうかはスイス国民全体のことなので、当たり前に国民投票が行われ、国民は加盟しないことを決めました。憲法にも国民には決める権利があると書かれているので、それにのっとっているのです。
署名を集めるのは誰であっても構いません。たとえば以前は終身刑がなかったのですが、ある家族のお子さんが殺人で刑務所から出所した人に誘拐され殺害される事件がありました。そこでその家族が終身刑を求める署名をスタートさせ、議会に提出し、今では終身刑ができました。
――その制度が日本にあれば、今とは違った日本になっていそうですね。ところで、どうしてスイスはEUに加盟しないのですか?
ピドゥさん:スイスは経済的にも安定していて、国民投票のシステムもうまくまわっています。EUに加盟するとEUの決定によってさまざまなことが進められて、スイス独自で決められなくなってしまいます。EUは今年3月に日本と自由貿易の交渉をスタートさせましたが、スイスはもっと早く5年前から自由貿易を始めています。
スイスとEUはLove-hate relationship(愛憎が絡み合った関係)で、とても複雑です。フリートレードも毎回、話し合って進めています。今はWin-winですが、将来的にはシステムも変えなければいけないかもしれません。
このようなことで投票が2~3カ月に1回行われているので、スイスでは政治そのものについてはあまり話題にしませんが、投票のことについてはよく話します。
――スイスでは国、そして自分がどうしたいかを、個人個人が意識して考えているのですね。
ピドゥさん:キャリアについてもそうです。スイスではキャリアステップのための転職は必要だと考えられています。逆にずっと同じ職場にいることは、怠惰だという印象を与えるほどで、海外で経験を積むこと、異なる会社での経験も重要視されるのです。
たとえば同じ銀行系をいくつか経験して、また最初の銀行に戻ることもします。その転職がキャリアアップのための転職であれば、とてもよいことなのです。
働く時間もメリハリをつけます。スイス人は週の就業時間が43時間ぐらいで勤勉です。でも一年に4週間の休みがあり、ちゃんと休んでリラックスして力を蓄えたうえでまた仕事に戻るのです。仕事がないのにだらだらオフィスにいることは、プロフェッショナルではないと思われます。必要なときには週末も働くので、時間があるときには早く帰るなど、効率よく働いているんですよ。
(撮影:今井康一)
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