「小林カツ代」人気再燃は何を意味するのか 没後3年、レシピ本やエッセー本が続々発売

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若かりし時代はアーティストを志していたが、ひょんなことからテレビ番組に起用され、料理研究家になった小林は、1980~1990年代に時短料理で人気料理研究家になった。このときは、「きょうの料理」や昼の番組に引っ張りだこだったものの、あくまでその人気はレシピを活用する主婦が中心だった。

その実績が評価され、1994年に人気料理対決番組「料理の鉄人」で、料理研究家として初登場。ジャガイモ料理で、鉄人の陳建一に勝ってからファン層の幅が広がった。そのとき彼女が披露したのは、鉄鍋を使い強火で煮て短時間で仕上げる肉じゃが。この料理はその後、代表作と言われるようになる。

同番組はプロの料理人の地位を引き上げ、多くのカリスマ料理人を生み出したが、小林も、番組を契機に、男性も含めて幅広い層に知られる存在になった。

小林カツ代がほかの料理家と異なる点

小林がほかの料理研究家と一線を画すポイントは、レシピの数の多さではない。もちろん生涯で1万点以上のレシピ、230冊以上の書籍は多い。しかし、再発見されるカギは、彼女が料理を支える広い社会へと関心を抱き続けたことにある。

食べものは、食卓に上るまでに多くの手を煩わせている。農家、漁業者、加工業者。運送業者、包装資材メーカー、流通業者。冷凍冷蔵設備メーカー、倉庫業者、トラックや飛行機のメーカー。料理の道具、食器、厨房機器の製造業者。料理研究家やフードコーディネーターなどの料理の考案者、出版、テレビなどのメディア、広告会社。家電、キッチンメーカー。工事業者、電力会社、ガス会社。生産や流通、消費のルールを決める政治家。そして、料理の作り手。そういう人間の営みを支える自然環境とも切り離せない。

人間は、農耕を始めた太古の昔から、食べものを配分するために政治の仕組みをつくり、社会を築いてきた。日々の食事を作ったり、選んだりする作業は、生計を支える仕事に比べて軽んじられがちだが、実は何よりも大事な営みである。だから食は本来、社会と不可分な関係にある。

小林は、ノウハウの提供にとどまらず社会にまで目を向けた、希有な料理研究家なのだ。特に「料理の鉄人」出演以降、環境問題や福祉、動物愛護などの分野でも積極的に発言してきた。その関心の幅広さが、料理に関する発言にも見え隠れする。

『小林カツ代の日常茶飯 食の思想』(河出書房新社)には、こんな発言がある。

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