ヤマトの値上げでアマゾンは運送会社化する アマゾンとヤマトがライバル関係に?

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アマゾンは基本的に小売店なので、これまでは自社の商品か自社に出店するショップの商品だけを扱ってきた。しかし、今回の取り組みは、百貨店やドラッグストアなど、大手小売店の商品をアマゾンが配送するという形になる。そうなってくるとアマゾンの仕事は限りなく運送会社に近くなる。

もしアマゾンがこうした提携をさらに拡充するということになると、アマゾンと運送会社は発注者と受注者という関係ではなく、場合によってはライバルという状況に変貌する可能性も出てくるわけだ。

ネット通販による自社配送網強化につながる可能性も

続いて同社は、有料会員向けに、野菜や果物、鮮魚など生鮮食料品を配送する「アマゾンフレッシュ」を開始すると発表した。

アマゾンフレッシュは、10万点近くの食料品や日用品を最短4時間で自宅に届けるというサービスで、アマゾンが用意した物流センターの冷蔵・冷凍倉庫からプライムナウの配送拠点を経由して直接顧客に配送される。まずは東京都の港区や千代田区など6区でスタートし、順次対象地域を拡大する予定だ。

このサービスを利用するためには、有料会員の年会費(3900円)に加え、フレッシュ利用料として月500円を支払う必要がある。1回ごとに500円の配送料金がかかることを考えると、決して割安なサービスとはいえない(6000円以上購入した場合には配送料は無料)。

だが、世帯によっては買い物の時間を節約したいという強いニーズがあり、こうした顧客は追加料金を払ってでも利用する可能性が高い。しかも月額の固定費が発生するので、一度、取り込んだ顧客は満足度が低下しない限りは、サービスを継続してくれる。うまくいけば、アマゾンはロイヤリティの高い顧客層をうまく囲い込むことができるようになる。

ヤマトがアマゾンに対して2割の値上げを行った場合、アマゾンは最大で数百億円の追加負担が必要となるが、こうしたコストをヤマトに対して支払うのであれば、そのコストを自社の配送網拡充に費やすという判断を下しても不思議ではないだろう。

自社配送網を使った通販サービスは量販店のヨドバシカメラやディスカウント・ショップのドン・キホーテなどもスタートさせている。ヤマトの値上げは、もしかすると、ネット通販企業による自社配送網拡充のきっかけとなるかもしれない。

(文:加谷珪一)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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