トランプ家とユダヤ教、その浅からぬ関係 現職で初めて聖地「嘆きの壁」を訪問した意味

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イスラエル情勢に詳しい中東調査会の中島勇・主席研究員は、「ユダヤ人票が少ない選挙区でも、米連邦議員はイスラエルに批判的、といわれることに戦々恐々としている。これはキリスト教福音派の影響力だろう」とみる。2008年、オバマ前大統領はイスラエルを訪問した際に嘆きの壁を訪問したが、大統領候補者としてだ。目的はもちろん、ユダヤ人ロビーとキリスト教福音派の好感を得るため。しかし、2013年に大統領としてイスラエルを訪問した際には、嘆きの壁に行かなかった。”役目”は終わったのだ。

その後オバマ氏は、イラン核開発合意をめぐり、絶対に許容できないと考えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と鋭く対立する。

一方、オバマ氏の政策をことごとく批判するトランプ氏は、現職大統領として嘆きの壁に行くべきではない、という国務省を中心とする政府内の慎重論を押し切って、訪問した。ただ、この間、米国外交のキーマンであるティラーソン氏は、「トランプ大統領が嘆きの壁がある東エルサレムを訪問したことは米国が東エルサレムをイスラエルのものと認めたことを意味しない」、という趣旨の国際社会に配慮したコメントを出している。

1967年の第3次中東戦争で、イスラエルは嘆きの壁がある東エルサレムを占領、その後併合し、1980年にイスラエルの永遠の首都とした。ただし、国際社会の扱いは別である。エルサレムをイスラエルの首都と認め、エルサレムに大使館を置く国は存在しない。米国、日本、EU(欧州連合)など主要国は、イスラエル最大の経済都市で宗教色の薄い、テルアビブに大使館を置いている。

イスラエル支持の思いはまだ実現せず

イスラエルの中道左派有力紙ハ・アレツ紙は、トランプ氏があえて現職初の嘆きの壁訪問を行った目的について、「これまでの慣例を破ったのは世界のイスラエルロビーの夢を実現するため」としながら、「米国のユダヤ人とイスラエル人の歓心を買うためのすばらしいジェスチャー」と、やや皮肉な語り口でコラムを掲載している(ハ・アレツ紙英語電子版、2017年5月22日付)。

トランプ氏はイスラエル支持の思いを、現職初の嘆きの壁訪問で熱烈に表現したが、実際の米国の外交政策は、選挙期間中の「米大使館のエルサレム移転」や「イラン核開発合意見直し」「イスラム教徒の入国禁止」「メキシコ国境の壁建設」が米国内で阻止された。実行される気配はなく、「オバマ・ケア廃止」の頓挫を含めて、選挙中の”トランプ砲”は空砲になっている。米国の中東外交もオバマ前政権時代の政策を表現で修正したものの、実際はそれをほぼ継承する現実的なものになりつつある。

重なる政府高官人事ミスやロシアとの不祥事疑惑で追い詰められているトランプ氏にとって、今回のサウジアラビア、イスラエル、そしてローマ・カトリック教会総本山のヴァチカン巡りは、3つの一神教の聖地巡りの旅でもあり、傷心を慰めることだろう。もう一つ、トランプ氏の成果は、ファーストレディであるメラニア夫人の華麗な容姿とファッションが、世界中の視線を集めたことだろうか。
 

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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