マクロン勝利で陳腐化する「右派対左派論争」 左派対右派の分類は現代政治にそぐわない

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左右の線引きは、なにも経済に限ったものではない。フランス国民議会の深い分断は、反ユダヤに端を発する1894年のドレフュス事件の流れをくんでいる。1930年代には、極右団体アクション・フランセーズに、反ファシズムを掲げる人民戦線が対峙した。この構図は、マクロン対ルペンの現代にも存在する。

ドレフュス事件とは、ユダヤ人のアルフレド・ドレフュス陸軍大尉が国家反逆罪の冤罪(えんざい)を着せられたものだ。自由、平等、友愛というフランス共和国の理念の信奉者が市民権を法的概念と考える一方、血や出自を重視する勢力は、ドレフュスを国家退廃の象徴と見た。外国の血で祖国の神聖なアイデンティティが薄められていると。

右派が抱える「矛盾」という問題

排外主義者は「冷酷な銀行家」(ルペン氏はマクロン氏をこう呼んだ)は「善良な一般庶民」(英国独立党のナイジェル・ファラージ元党首がトランプ応援演説で語った言葉)の敵だと見ている。

その意味で、かつてロスチャイルドの投資銀行で働き、開かれた国境の信奉者であるマクロン氏は左派の人間だ。ルペン氏は、フランス人であることとイスラム教徒であることは両立しえないと考える、地方の怒れる白人の代表者であり、極右団体アクション・フランセーズの真の継承者である。

今回の大統領選ではマクロン氏がルペン氏を抑えたが、左派は依然として危機にある。低所得者層の多くが右派へとなびく中、左派陣営はどう生き残りを図るのか。

右派も同様に問題を抱える。一般庶民のために働くと言いながら、トランプ大統領は投資銀行ゴールドマン・サックスや大企業の出身の財界人で側近を固めた。同氏の排外主義者のイメージは、移民やグローバリズムを背景に成長した財界の利益と両立可能だろうか。

今回の大統領選でフランスはかろうじて排外主義者の手に落ちずに済んだ。だが、状況は予断を許さない。左右の定義は流動的になったが、伝統的な分断は今もそこにある。マクロン氏の政治が失敗に終われば、ドレフュス事件の流れをくむ国粋主義者がすさまじい勢いで反撃に出るだろう。

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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