「ウェブの漫画が紙を食う」時代は終わった 「少年ジャンプ+」などひしめく漫画アプリ
たとえば、版元のフラッグシップ誌に載る作品よりマイナー誌に載る作品が売れる状況は、コミック誌が価値を失ったことを意味するのではないか。
「コミックビーム」は創刊21周年となる昨年10月、「読もう!コミックビーム」というプレミアムサービスを開始した。月額は強気の1980円で、連載や単行本の読み放題、漫画家と編集部のニコニコ生放送などを盛り込む。
「これまでは雑誌の原稿料が漫画家の維持費になり、単行本の印税が漫画家の利益にまわる仕組みでした。しかし、もし作品がネットでのダウンロード数のみで測られるようになったら、漫画家の収入が極端に下がるケースも出るのでは」(岩井さん)
運営と漫画家、双方が持続可能という意味で、成功したウェブ媒体はまだないと岩井さんは考えている。
「漫画家たちの生活を守るためにも、なんとか雑誌を死守したい、と思っているのですが……」(同)
自ら動く漫画家の登場
漫画家たちも、業界の変化に反応している。
漫画家の鈴木みそさんは、「漫画家が出版社からのオファーを待つ時代は終わった」と語る。雑誌数は減り、連載枠は椅子取りゲーム、原稿料は下がる傾向にある。ウェブ媒体は、出版社と作家が築いてきた従来の関係とは異なり、極めてビジネスライクに話が進む。危機感から、自身で電子書籍を刊行するなど動いてきた。
閉鎖した漫画サイトで連載していた『内定ゲーム』に不足分を加筆し、刊行するプロジェクトが、クラウドファンディングで目標額160万円に対して244万円あまりを達成、成立した。
「ぼくは爆発的に売れるタイプではないが、フェイスブックに友達とファンが1千人ずつ、ツイッターにフォロワーが3万5千人いる。自分をエージェントとして、できる限り好きな漫画を描く環境を開いていくつもり」(鈴木さん)
新しいアプローチは他にもある。東京・渋谷にある「マンガサロン『トリガー』」も、クラウドファンディングで誕生した、カフェバー兼イベントスペースだ。読者に漫画との出合いを提供するのが目的だ。4千タイトル以上の漫画があるが、所蔵は最大で3巻まで。気に入ったら、続きは各自買って読んでもらう。
5月1日に開催された「漫画家のマンガサロン」には、宵町めめさんの新刊発売を記念し、宵町さんら4人の漫画家と読者が集まった。
「今日のテーマは、『みんなでマッキーでベタを塗ってみよう』です」(宵町さん)
テーブルに模造紙を広げ、漫画家たちが来場客にリクエストを募る。「このコマがいいです。守られる側だった子が、立ち向かっていくシーン」。描かれたイラストを参加者たちが黒マジックで塗っていく。何げない雑談だが途切れることはない。
常連の男性客(19)は言う。
「こんな距離感で漫画家さんと話せる機会があるとは思っていませんでした。楽しいです」
作品と作者、読者、作り手の思いが交錯し、小さな爆発がいたるところで起こっている。
(編集部・熊澤志保)
※AERA 2017年5月22日号掲載の「漫画の進化は止まらない」に加筆
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