JR貨物、悲願の株式上場に立ちはだかる障壁 鉄道ついに黒字化、物流の存在感も高まるが

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JR旅客会社に支払う線路使用料は低い水準に抑えられている。たとえば、JR貨物は経営基盤が脆弱な第三セクター鉄道会社に支払っている線路使用料は、アボイダブルコストルールではなく、より割高な線路使用実態に即した金額を支払っていることでその説明はつく。ちなみに第三セクター鉄道へ支払った線路使用料とアボイダブルコストの差額は、国から調整金として補填されるので、JR貨物の懐は痛まない。

「株式上場にあたり、当社に必要な経営の枠組みは維持してもらいたい」と田村社長は言う。もし、JR旅客会社に支払う線路使用料が値上がりしたら、せっかく黒字になった鉄道事業が再び赤字に転落しかねないからだ。

JR旅客会社の株主が反発?

JR九州の上場に際して、3877億円の経営安定基金を国に返還すべきではないかという議論があった。同基金はローカル路線の赤字を埋めるため、国から出た補助金にあたるものだが、結局は国に返還せず、新幹線貸付料などの支払いに充当した。アボイダブルコストルールも経営安定基金同様、国鉄分割民営化の置き土産だ。JR貨物もJR九州同様、上場に際しては現行の基本的な枠組みは維持したいところだ。

ただJR九州と違うのは、線路使用料は国ではなく、JR旅客会社と取り決めている点だ。JR旅客会社は、本来JR貨物が負担すべき費用を負担している形になっているため、JR貨物がアボイダブルコストルールを温存したまま上場するとしたら、JR本州3社の株主が反発する可能性は十分ある。

経営再建途上のJR北海道も、「青函トンネルの維持管理は当社がやっているが、当社が使わない貨物用設備の維持管理費用まで当社が負担するのはおかしい」(島田修社長)と指摘している。

今年3月にJR貨物が策定した「中期経営計画2021」では、「将来の株式上場も可能な体制を作ります」という経営目標を掲げて方策を列挙している。しかし線路使用料に関する説明はない。鉄道事業の黒字定着が見えてきたが、この線路使用料というアキレス腱が上場に際して議論を呼ぶのは間違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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