日本から先端軍事技術が流出しかねない理由 大学は「安全保障貿易管理」を直視すべきだ
日本では1987年の「東芝機械ココム違反」事件で外為法が適用された。東芝の子会社が旧ソ連に工作機械を輸出、その技術が原子力潜水艦のスクリュー開発に使われたとして日米政府を巻き込む国際問題になった。その後もダイキン工業や日本航空電子工業、ヤマハ発動機などがイランや中国への不正輸出や未遂事件で摘発されている。
企業にとって問題が発覚すれば、国内外から非難を浴び、社会的信用は大きく失墜する。そのため産業界と国は少なからぬ年月をかけて、この問題に対するコンプライアンスを強化してきた。
しかし、2004年に日本製の3次元測定器がリビアの核開発施設で見つかり、2007年には日本製の真空ポンプが北朝鮮の核関連施設で発見されている。前者は大手精密計測機器メーカーのミツトヨが機器の検査データを改ざん、マレーシアの現地法人を使って不正輸出をしたとして元役員らに有罪判決が下された。後者は輸出に関係したメーカーや代行業者は不起訴となったが、台湾などを迂回して北朝鮮に技術が渡ったとして、警察や経産省が取り締まりを強化することになった事件だ。
そして今、「日本企業のハードルが高くなった分、日本の大学はハードルが低いと目をつけられるようになった。大学が狙われているということだ」と、民間の輸出管理対策を支援する安全保障貿易情報センター(CISTEC)の押田努専務理事は指摘する。
大学からは戸惑いと不満の声も
海外では無人航空機に関する技術情報を外国人に違法提供した大学教授や、軍事用センサーを無許可で輸出した留学生が逮捕されている。アメリカ国防総省国防保全局は、安全保障上の機微な情報が「学問を利用して収集されている」と警告。特に東アジア・太平洋地域から深刻な脅威があると報告書にまとめている。
押田理事によれば、日本でも大学教員が核・ミサイル開発に協力した疑いで逮捕寸前にまで至った事例や、外国人教授が自国の軍備強化に直結する研究を受託しようとした例が現実にあるという。大学の国際化が進むほど、こうしたリスクは高まるものだといえるだろう。
経産省の産業構造審議会安全保障貿易管理小委員会は今年1月、「国際化の推進は国としての大原則」と確認したうえで、「企業だけでなく、先端的な研究活動を行う大学や研究機関も適切な管理を実施することが求められ」、国際化の進展と技術の流出防止を「アクセルとブレーキ」のように整備するべきだと提言した。
国は安全保障貿易管理について、企業や大学を対象に年間100件程度の説明会やセミナーを開催。2013年から毎年、「輸出管理DAY for ACADEMIA」と呼ばれるシンポジウムを後援している。今年も2月末に東京で開かれ、全国の大学担当者ら約300人が出席した。当日は経産省をはじめ文部科学省、外務省、法務省の各担当者が制度の必要性や省庁の取り組みを説明。各大学からは主に産学連携や法務部門の担当教員が現状や課題を報告し、全体としては一致してこの制度を定着させていくことが確認されていた。
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