トランプ大統領が操る「狂気の戦略」の正体 「何をしでかすか分からない」キャラの効果

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4月12日付の中国紙『環球時報』社説からそんな様子がうかがえる。「北朝鮮が近く6回目の核実験を行えば、米国の軍事行動の可能性は以前より高くなる」「核実験やICBM発射は米政府の顔をひっぱたくことになる」「北朝鮮が今月挑発的な動きをすれば、国連安保理が北朝鮮への石油輸出制限などのかつてない厳しい措置を採択することを中国社会は賛成するだろう」

環球時報は中国共産党機関紙『人民日報』傘下の新聞で、論調は党の立場と同じだ。『ロイター通信』や『ハフィントン・ポスト』は環球時報を転電し、「中国が北朝鮮への石油供給停止の用意」などと伝えた。トランプ氏は『ウォールストリート・ジャーナル』紙とのインタビューで、中国が北朝鮮問題を解決するなら、米国は貿易赤字を受け入れる価値があるとまで述べた。

北朝鮮をにらんだ狂気の戦略はそれにとどまらなかった。原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近くに移動させ、さらに通常爆弾では最大の爆発力といわれる大型爆風爆弾(MOAB)「GBU-43」をアフガニスタンのイスラム国(IS)軍事拠点に投下した。

「大型爆風爆弾」を使った理由

米軍事専門家の間では、MOABより旧式で少しだけ爆発力が弱い「デイジーカッター」はベトナム戦争やイラク、アフガンでも使われている。なぜ今回MOABを使用したか、その目的は不明とされている。恐らく心理的に敵に「衝撃と畏怖(shock and awe)を与える狙い」(ジェフリー・ルイス・ミドルベリー国際問題研究所研究員)とみられている。

明らかに北朝鮮に対して狂気の戦略で圧力を加える作戦の一環のようだ。ベトナム戦争の歴史的研究で博士号を取得したH.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)や学究肌のジム・マティス国防長官ら政権内の一大勢力となっている軍人の俊英が、大統領の性格や特性を利用して狂気の戦略を意識的に展開しているのかもしれない。

だが、こうした圧力を受けて、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を自制するかどうかがポイントだ。既にトランプ大統領の成果として「称賛に値する」(『ワシントン・ポスト』紙電子版4月12日付)との報道もあるが、まだ危機は回避されていない。

そんな中、米メディアが14日一斉に、国家安全保障会議(NSC)が新しい北朝鮮戦略を決定したと伝えた。その内容は、(1)北朝鮮が核廃棄に向けて交渉に戻るよう、最大限の圧力を加えるが、(2)体制変更を目指さない――ことを骨子としているという。

恐らく、過去2カ月間にわたったNSCの議論を「国家安全保障大統領メモ(NSPM)」の形でまとめ、主要メディアを招いてブリーフィングした、とみられる。北朝鮮は体制維持が最重要課題なので、NSC決定のこの部分は評価するだろう。しかし、核廃棄には抵抗する。従ってこの戦略遂行には巧みな外交が必要となる。さらに、北朝鮮に関するインテリジェンスも不足している。

トランプ政権が政権発足1週間後の1月27日付で発表したNSPM1は、「力を通じた平和の追求」としている。トランプ政権は軍備増強はするが、国務省予算は30%以上カットする構え。しかしこれで、未だ人員が揃わない国務省の外交力に頼ることができるだろうか。

(文:春名 幹男/国際アナリスト)

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「Foresight」編集部

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