EU消滅の引き金は「知識人たちの錯覚」である

ブレグジット予言者による「国民国家」復活論

20世紀前半には数えきれないほどの欧州の知識人が、共産主義に心を奪われ、ソ連を熱烈に支持したものだ。両大戦間の時代には多くの西側の知識人が共産党に入党した。後に英国の蔵相や国防相を務めたデニス・ヒーリーもその1人だ。ソ連の支持者のリストには、ほかにも英国の作家ジョージ・バーナード・ショー、H・G・ウェルズ、ウォルター・デュランティ、ドイツの作家エミール・ルートビヒ、ハインリッヒ・マン、リオン・フォイヒトバンガー、米国の作家セオドア・ドライサー、フランスの作家シモーヌ・ド・ボーボワール、ロマン・ロラン、アナトール・フランス、アンリ・バルビュス、ルイ・アラゴン、エルザ・トリオレらが含まれていた。

1920年代にこうした支持者の代表団がソ連を訪問し、目にしたものに感銘を受けている。

彼らは、それが訪問者の歓心を買ったり、是認を得たりする目的で特別に建設された工場や農地であるなどとは夢にも思わなかったようだ。

地獄への道は善意で舗装されている

不思議なのは、なぜそれほど大勢の賢明で世知に長けた人々が、いともあっさりと籠絡(ろうらく)されてしまったのかだ。彼らは資本主義社会で見ていたものに不満を抱き、もっと良いものがあると信じたかったのだろう。またロシアに関して言えば、知識人たちは共産主義に先立つ帝政の欠陥を熟知していた。

第2次世界大戦中から戦後にかけては、ソ連との連携が一層魅力あるものに見え始める。ソ連がファシズムに雄々しく立ちむかい、それを打ち破るのに大きく貢献したからだ。それに対して、西側民主主義国がアドルフ・ヒトラーに譲歩したのは臆病な行為だと見なされた。これは控えめに言っても偏った見方だった。なぜならヨシフ・スターリンがナチスと独ソ不可侵条約を結んでいたという事実や、最初にヒトラーに宣戦布告したのは英国とフランスだったという事実は、ほとんど無視されたからだ。しかしなぜ耳当たりがよい神話に事実を割り込ませる必要があろうか。神話は生き続け、やがて高い教育を受けた英国人の中からソ連のためにスパイ行為を働く者さえ現れた。

私はここでEUや欧州統合の理想を邪悪な共産主義になぞらえたいわけではない。私が言いたいのは、知性と善意を持つ大勢の人々が、時代を画する大問題について考えを誤る例もあるということだ。人々はコンセンサスにのみ込まれることがある。コンセンサスはそれ自体が命を持ち、ひとたび定着するとなかなか揺るがない。人々は自分が信じたいものをつい信じてしまいがち。なぜなら、それにより心地よい世界観や未来像が得られるからだ。そうしたコンセンサスへの依存行動はある種の麻薬のようなもので、断ち切るのはとても難しい。

ユーロが生きながらえるとしたら、それは間違いなくその通貨同盟を救うために、(英国を取り残したまま)何らかの財政・政治同盟がつくられた場合だ。この同盟は未来永劫、課税し、調和を図り、規制するだろう。根本的な改革が行われないかぎり、そのような同盟はEU経済の成長に極めて有害な決定をするものと思われる。ユーロの創設とその悲惨な経済効果は、将来に対する身の毛のよだつような警告なのだ。同じことは、統合への動きに我慢ができなくなったほかのEU加盟国についても言える。

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