日本銀行という専門医は診断を間違っていた 成功せず副作用の大きい治療法は縮小せよ

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縮小

こうした状況でいったいどのような行動を採るのが最善なのかは、非常に難しい問題だ。何かしっかりとした理論があるのであればぜひ教えていただきたいと思うが、とにかく決断しなくてはならないという状況だ。筆者ならこう考える。何もしなければ短期間のうちに死んでしまうということであれば、非常に危険だといわれる治療法でも試してみるしかないが、逡巡している間に症状が悪化するおそれはあるものの危険が差し迫っているわけでもない、というのであれば様子を見たい。もちろん同じ状況下でも人によって判断は異なるだろうし、同一人物でも判断は揺れるに違いない。行動経済学はわれわれの判断にバイアスがあることを教えており、最善の決定ができるという保証もない。 

さて、それまで危険で行うべきではないと考えられていた政策が、非伝統的政策として次々と実施されてきたのは、従来の政策では日本経済がなかなか改善しなかったためだ。失業率は高止まりし、新卒者の就職は「氷河期」といわれるほど厳しい状況が続いていた。リーマンショックでは、世界経済が1930年代のような深い谷に落ち込んでしまうのではないかと思われたほど、激しい経済の悪化に襲われた。

むしろ副作用の大きい治療法から撤収を

さて現状はどうか。目標としてきた2%の物価上昇は実現できていないが、失業率は大きく低下し、むしろ人手不足が問題となっている。2月の有効求人倍率は1.43倍で失業率は2.8%となった。失業率が3%を下回ったのは1994年末以来のことで22年ぶりだ。賃金上昇率が高まっていないので、完全雇用ではないという主張もあるが、この水準の失業率が社会的にも経済的にも非常に大きな問題であるとは考えにくい。日本経済が復活したというわけではないのは明らかだが、リーマンショック直後の米国経済やバブル崩壊直後の日本のような緊急性のある状況でないだろう。

日銀が今、さらに強力かもしれないが副作用ももっと大きいと考えられる政策に踏み切るという冒険を行わず、昨年秋に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入して、デフレ脱却に向け長期戦の構えを見せているのは当然だ。非伝統的金融政策の危険性を重視する立場からは、むしろ縮小を検討すべき状況と見ることができるだろう。

さて、みなさんの選択はどうだろうか。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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