しかし、独立性というのは実は微妙で複雑な概念だ。たとえば三権分立とはいっても、それぞれが完全に独立しているわけではない。米国では保守派とされるゴーサッチ氏を最高裁判所の判事に任命することが上院で承認されたが、大統領と議会は人事を通じて司法に大きな影響力を持っている。
同じように、政府は日銀の人事を通じて金融政策に大きな影響力を持っているし、そもそも日銀の独立性を保証しているのは国会が決めた日銀法だ。お手本のようにいわれる米国のFRBでも、過去にはインフレ抑制に功績のあったボルカー元議長が退任に追い込まれたことがある。トランプ大統領はイエレン議長の再任について否定的な発言を修正したが、一方で利上げを牽制する発言もしている。政府と中央銀行との関係は教科書に書いてあるほど単純なものではなく、微妙で緊張に満ちたものだ。
医者が治療法のリスクと撤収方針を説明しない
金利を下げれば債務者の負担が軽くなり債権者の所得は減るのだから、金融政策の変更によって利益を得る集団と負担が生じる集団ができる。民主主義の仕組みの中では、建前からすれば受益と負担の生じる問題についてはすべて国民の代表である国会が決めるべきだ。
しかし、民主主義には判断が近視眼的になりやすいという欠陥もある。短期金利を上下させる通常の金融政策で生じる所得分配への影響は一時的なものであるので、経済の安定が実現できるのであれば、専門家に判断を任せるほうがよいというのが、中央銀行の独立性の理由であろう。病気の治療をするときに、体調がよくなったからといって薬を飲むのをやめてしまうとまた症状が悪化してしまうということがある。患者は自分で勝手に判断せずに、専門家である医師に判断を任せるべきだろう。
しかし、異次元と称するような非伝統的金融政策は、国民にケタ違いの負担を引き起こす可能性があり、専門家に任せておけばよいというわけにはいかない。われわれは深刻な病気で主治医からかなり危険性の高い手術を勧められた患者のような立場にある。どのような治療が最善なのかを判断することは難しいが、自分や家族の命にかかわる問題について、すべて主治医にお任せということはしないだろう。病状と治療方針についてできるかぎり理解したいと考えるはずだ。
困ったことに、この主治医は手術がどの程度危険なのか、手術後に起こると懸念される症状をどうやって治療するのか、時期尚早と称して説明してくれない。さらにセカンドオピニオンを求めた医師は、この治療は非常に危険なのでやめたほうがよいというのだ。
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