ネット広告の「詐欺」がなくならない根本理由 メディア選別が広告主にとって最良の道だ

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不正広告を排除する対策ツールを提供するMomentum(モメンタム)社の高頭博志社長は、「広告投資を行う側からみると、アドフラウドにおける問題は、あたかも誰も住んでいない廃墟にチラシを届けるかのような、無価値な広告投資を行ってしまうことにある」と指摘する。

米国の広告業界団体「Association of National Advertisers」のリポートによると、2016年の世界全体のアドフラウドによる被害額予測は72億ドル。DSP(Demand-Side Platform、広告主のために用意された広告配信プラットフォーム)事業者とモメンタムが共同で行った調査によると、日本では、全体の広告配信の1%弱がアドフラウドとして観測されているというデータも存在するという。

次にアドフラウドの具体的な手法を見ていこう。まず、 BOT(ロボットのこと)と呼ばれるコンピュータプログラムを用いる手口がある。ディスプレー型広告の成果は、表示回数(インプレッション)によって決まり、それがどのサイトで発生しているか、そもそも人が本当に見ているかといったことは重視されていない。そこで、プログラムにより操作したブラウザによって、特定のサイトのインプレッションを大量に発生させたり、一定間隔でクリックを発生させるなどの方法で、成果があったように偽造しているのだ。読んでいる読者がいないのに部数を水増しする、新聞の「押し紙」のイメージに近いかもしれない。

他人のサイトに、勝手に広告を貼り付ける手法も

また、第三者のメディアから広告枠をかすめ取る「Ad Injection」といわれる手法もある。ユーザーが閲覧しているメディアに、本来掲載されるべきものではない広告を第三者が不正に挿入するというものだ。ウェブを見る機能を持つアプリなどによって、ユーザーが閲覧中のページを書き換え、本来掲載されている広告の上に、まったく無関係な広告を差し込む。

電車の中吊り広告の上に、勝手に別の広告を貼り付けているようなイメージだ。広告の収益は不正な事業者に対して流れてしまい、ユーザーにコンテンツを提供したメディアへは広告収益が入らない。アドフラウドによって、広告主だけでなくコンテンツを提供するメディアも搾取されてしまっているのだ。

「アドフラウドは、世界的に見ると組織犯罪の中で麻薬取引に次ぐ犯罪になると予測されており、大きな社会問題となっている。情報商材を販売する事業者であったり、クレジットカード決済の不正を行っている事業者など、さまざまな反社的な活動を行ってきた事業者が、アドフラウドを新たな収益源としている動きも見られる」(高頭氏)

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