「プリウスPHV」が不人気を吹き飛ばした理由 大幅進化の新型は欧米の挑発に実力で応えた

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実際のCO2排出量に、一般的なユーザーの1日の平均走行距離とされる25kmを掛け、それを電動走行可能距離+25kmで割るという内容で、通常の測定では180gという数字でも、電動走行可能距離が25kmなら、CO2排出量は半分の90gになる。もちろん2021年の規定はパスするし、環境にやさしいクルマであるとアピールもできる。

これを受けてVW(フォルクスワーゲン)、メルセデス・ベンツ、BMWなど欧州メーカーがPHVを次々に登場させる。それらの一部が2015年以降、日本に上陸を始めた。日本勢は2013年に登場したアウトランダーの孤軍奮闘という状況だった。プリウスはこの年末にモデルチェンジを予定しており、手を下せなかったのである。

一部の自動車メディアはこの状況を取り上げ、「日本はPHVのトレンドに乗り遅れた」と記事にしていた。

先駆者の意地

ただ、賢明な読者であればこれが、欧米が仕掛けた戦略であることに気づくだろう。欧州の自動車関係者の中には、HVやFCVの販売で日本のトヨタが先行したことを快く思っていない人もいる。ゆえに対抗軸を立て、優遇策まで用意して、自分たちの優位性をアピールするという戦略を打ち出した。タイミングまで含めて、プリウスを狙い撃ちにしたような内容だった。

電池比較(筆者撮影)

しかし、トヨタはこの状況を予見していたようだ。翌2016年3月にまず米国で、6月には日本で初公開された、新型プリウスPHVは、一度は追い抜かれた欧米勢に追いつき、再びリードできるだけの内容を持っていたからである。

リチウムイオンバッテリーの大きさは先代とさほど変わらないが、効率は大幅に向上した。満充電での電動走行距離は一気に68.2kmまで伸び、PHVのベンチマークを作ったといわれるアウトランダーPHEVの60.2kmを含めて、国内外の多くのPHVの数字を上回った。

インテリア(筆者撮影)

HVとの差別化が少ないといわれたデザインは、フロントマスクを別物とし、リアコンビランプも一新した。リアゲートは軽量化のためにカーボンファイバー製とし、リアウインドーは空力性能を意識したダブルバブル形状としている。インテリアは巨大な縦長ディスプレーにより、ひと目でPHVとわかる。

ここまでの進化を果たしながら、価格は前述したように、先代と同程度に収まっている。ひとまわりボディサイズが大きなSUVのアウトランダーPHEVはもちろん下回り、輸入PHVで同等の車格となるVWゴルフGTEより100万円以上安い。

ラゲッジ(筆者撮影)

しかも新型は単にエコなだけではない。HVのプリウス同様、新世代プラットフォームTNGAの採用により、走りの楽しさが飛躍的に高まった。さらにHVと比べて静かであり、乗り心地は落ち着き感が増すなど、「上質なプリウス」という表現がふさわしい内容に仕上がっている。欧米の挑発に実力で応えた先駆者の意地が至る所から感じられた。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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