「工場萌え」、東京圏にもまだ造形美があった

機能的で合理的で美しい工場を求めて

秩父セメント第2工場(現・秩父太平洋セメント秩父工場)は、打ち放しコンクリートを駆使してつくられ、大きく高く長く、ダイナミズムにあふれている。戦後を代表する工場建築となった(写真:太平洋セメント提供)

20世紀の建築は2段階を経て成立している。

第1段階は19世紀末のアール・ヌーヴォーの出現で、このときをもってそれまでの歴史主義様式は勢力を失いはじめる。アーツアンドクラフツ、アール・ヌーヴォー、ウィーン・セセッションなど相前後してヨーロッパで起こった造形運動を総称してモダンデザインと呼ぶが、この動きの中では「工場萌え」は起きていない。工場による大量生産品の粗悪なデザインに反発して起こった運動だから、工場萌えなど起こりようもなかった。

モダンデザインの中から、1920年以降、モダニズムの建築が生まれてくる。これが第2段階で、モダンデザインの中に残っていた装飾性や手作り風を捨て、鉄とコンクリートでつくった四角な白い箱に大ガラスをはめた建築が確立する。バウハウスのヴァルダー・グロピウスとミース・ファン・デル・ローエ、フランスのル・コルビュジエの3人がリーダーシップをとり、やがて日本をはじめ世界中に広まり、現在にいたる。

船や飛行機に近い建築が工場だ

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工場萌えが建築家の間に生まれたのはこの第2段階であった。第2段階をリードした造形思想は、機能主義、合理主義と呼ばれ、人間のなす造形も 〝20世紀の時代精神である科学技術”に基づき、具体的には船や飛行機のように機能的で合理的でかつ美しいことを求めた。工場こそ、その本質からして船や飛行機に近い建築に違いなく、ここから工場萌えが、それまで工場など無視してきた建築家の間でフツフツと湧いて出てくる。

第1号となったのはドイツのペーター・ベーレンスのAEGタービン工場(1910年?)で、佐野利器と本野精吾が魅せられて2度も訪れているが、帰国後2人は工場を手がけてはいない。

日本の工場建築について述べる。モダンデザインとモダニズムによる工場で、今も残る例を東京に探しても山田守による東京都水道局長沢浄水場 (1957年)しか浮かばないし、関東圏に広げても谷口吉郎の秩父セメント第2工場(1956年)のあるばかり。さらに広げて日本海側まで加えると山口文象による名作、黒部川第二発電所(1938年)が登場する。

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