5歳児を衰弱死させた父親の絶望的な「孤立」

「助けを求めることを知らない」親たち

前出の田口さんによると、精神遅滞と呼ばれる人たちは数字上では2.2パーセントおり、日本には270万人以上いる計算になる。だが、そのうち、障害を認めて、障害手帳を取得している人たちは約74万人だという。

「多くの、特に軽度の知的ハンディキャップのある人たちは、配慮されずに育っています。多くの人が、お前はダメだと言われ、しかられながら生きてきた。大人になって自己肯定感が低い人になり、自分はダメだと思ってしまいます。助けを求めるものだとも思っていない。困ったときに助けを求められず、困難に巻き込まれていくことになってしまうのだと思います」

さらに、そうした特性から、取り調べの時、誘導されやすいなどの特徴もあるという。

精神疾患がある母親に育てられた過去

Sの2つ目のハンディハンディキャップは、精神疾患がある母親に育てられたことだ。12歳のときに、母親が統合失調症を発症した。ろうそくを家の中に立てて、その周りをぐるぐる回ったり、その火が着衣に燃え移り、全身やけどをするというエピソードを持っている。また、母親が家の外に出て行って叫び声を上げるということがあった。裁判のなかでSは次のように述べている。

「母の発症がショックで、嫌なことは日々忘れるようにしていた。親に甘えた記憶はないです。悩みを相談したこともない」

どう対処していいかわからないほどの困難に出合ったとき、考えないようにしてやり過ごすというのがSの身の処し方だった。

Sの心理鑑定をした、山梨県立大学の西澤哲教授は裁判で「極めて強い受動的な対処方式があった」と語った。

「Sさんは、極めて強い受動的対処法がある。問題が起こったら、解決に向けて何かしていくのではなく、与えられた環境をただ受け入れていく。それが非常に強い感じがします。

彼のお父さんは三交代で働く仕事をしていて、家族との交流がない。その中でお母さんに精神疾患の発症があった。お母さんのことは誰にも相談したことがないという。お母さんが外で大きな声を出しているのを、自身で家の中に引きずり込んだこともあった。そうしたことが、彼の受動的な対処様式を作り上げたのではないかと思います」

Sは私への手紙では次のように書いている。

「お母さんが病気になった時は(略)誰にも知られたくありませんでした。特に同級生には知られたくなかったです(略)。(家族から)病気の事を人に言ってはいけないと言われていませんが、家中がなんだかそういう雰囲気でした。時々自分のことがどうでもいい気持ちになる時があります。今でもそうなる時があります。(略)お母さんが家の外に出て声を出して、お父さんが家に引き戻す(略)事はありました。(略)一緒に手伝ったこともありました」

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