5歳児を衰弱死させた父親の絶望的な「孤立」

「助けを求めることを知らない」親たち

ただこの時期のこの母親とSの子育てには大きな違いがある。この母親は子どもたちと家に住んでおらず、ゴミに埋もれた部屋には幼い子ども2人だけが暮らしていた。深夜2時に部屋のインターホンからは、「ママー、ママー」という幼い女の子の声が漏れた。

だが、その後ろには子どもをなだめる大人の声がしない。そのことに不安を感じた住民が、虐待ホットラインに匿名で3回電話をしている。この通告は生きず、児童相談所は母子を助けることができなかったのだが、誰にも気づかれなかったわけではなかった。

誰も気付かなかった、父子の極限の生活

一方のSの事件。Sは、この家の雨戸を閉めきり、電気、ガス、水道が止まった状態ではあったが、R君と一緒に少なくとも2年間、暮らした。食事はコンビニで買ったおにぎりとパン、500ミリリットルのペットボトルに入った飲み物。それを出勤の日は1日2回、休みの日は3回与え、その傍らで自分も食事をし、酒を飲んだ。

言葉の乏しい息子と一緒に紙をちぎって、ひらひら舞い落ちる感覚を楽しんで遊んだ形跡も残っていた。そこは父子の生活の場だった。

それにもかかわらず、父子が生活した2年間、子どもの声を聞いたという証言はない。その後も7年4カ月もの間、事件は発覚しなかった。

子どもがこの家で育っていた当時、近所に住んでいた女性に話を聞くことができたが、彼女は次のように語った。

「雨戸が閉まりっぱなしの家から、時折、カタカタという音はして、小動物を飼っているのかと思っていた。だが、子どもの声や泣き声はしなかった」

少し離れた家に住む住民は、ここに幼い子どもが住んでいたことさえ知らなかったと言った。「お腹を空かせていたなら、ご飯を食べさせてあげたのに」とその死を悼んでいた。

R君は1度だけ、公的機関につながったことがある。3歳だった2004年10月上旬、半袖のTシャツに紙おむつ姿で早朝4時半に家の近くを1人で歩いていて、警察経由で児童相談所に保護されている。この時、体が汚れ、意味のある言葉を話すことができなかったと、児童相談所の記録にある。だが、虐待ではなく迷子と区分され、迎えに来た母親に返された。

母親は反省しており、児童相談所による家庭訪問を受け入れたという。だが、その日のうちに、買い物に行くと言って家を出て、そのまま戻らなかった。

虐待であれば、児童虐待防止法を受けて、児童相談所はR君の安否を確認し、家庭に踏み込むことができる。だが、児童相談所は虐待ではなく、迷子と判断した。さらにその1カ月後。厚木市が行った3歳6カ月検診をR君は受診しなかった。県の機関である児童相談所と厚木市に情報の共有はなく、危機を察知する人がいなかったのだ。R君を救い出す機会は、そうして失われた。

Sは徹底的に、自分の子育てを社会から隠していた。仕事先、自身の実家、妻の実家、そしてSの新しい交際相手も、ここでSがたった1人で子どもを育てていることに気がつかなかった。

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