京都の老舗料亭が巻き起こす「機内食」革命 三ツ星シェフとシンガポール航空がタッグ

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どのクラスの機内食も、監修シェフが直接作るわけではない。各国の空港近くに設けられた機内食工場で作られる。そのためメニューの変わる夏と冬の年2回、監修者が工場の調理師にレシピや調理のポイントを教え込まなければならない。

「菊乃井」の三代目主人、村田吉弘氏(右)。機内食に並々ならぬ思いを抱いてきた(記者撮影)

日本―シンガポール路線の場合は、成田とシンガポールの工場だ。調理師たちが村田氏の店に直接出向くこともあるが、シンガポールのような遠方の場合は、現地での経験があり英語もわかる日本人シェフが代わりに指導するという。「和食は日本独特のもの。メニューを英語に訳しただけではわからない。料理自体を”通訳”できる人が不可欠」(村田氏)。

そんな手間のかかる機内食の監修で、村田氏が新たに挑戦しようとしている分野がある。最も座席数の多いエコノミークラスへの進出だ。

「金持ちだけじゃダメ」

「エコノミークラスの機内食は食べるのがつらいという声をよく聞く。崎陽軒のシウマイ弁当のほうがよっぽどうまいでしょ」。航空各社が提供するビジネスクラスの機内食の品質向上を見届けた村田氏は、すべての座席で平等に美味しいものを提供したいという思いを強くした。「いろんな国のいろんな人が美味しいものを食べられる権利がある。金持ちだけじゃダメ」。

今後の機内食について話し合う村田氏とシンガポール航空の会合が、4月に行われる予定だ。そこでエコノミークラスの可能性も話し合われるという。

シンガポール航空のエコノミークラスで現在提供される機内食(記者撮影)

エコノミークラスで提供されるであろう実際のメニューについて、シンガポール航空本社で機内食担当マネージャーを務めるリチャード・ネオ氏は「"コンフォートフード"(食べるとほっとする料理)になると思う。角煮や肉じゃが、ビーフシチューなどといったもの。日本人客への調査では、なじみ深いものが好まれることがわかった。ただ提供数が非常に多いので、オペレーションのしやすさも考える必要がある」と話す。

「(フルサービスキャリアのような)航空会社は立派なサービス業。お客さんへのサービスが要らなければ、LCC(格安航空会社)でいい。エアライン全体でお客さんに喜んでもらおうという意識がなければ、その会社は終わる」と村田氏は指摘する。LCCが台頭し競争の激しくなる航空業界では、より一層差別化が求められる。シンガポール航空のようなフルサービス勢にとっては、機内食も競争力の源にしなければならない。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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