日本初LCCピーチ、「5年間の創業物語」の結末 自由闊達だからこそ、ピーチは生き残った

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ピーチ・アビエーションでは社員が急速に増える中、独自の価値観を共有するためのイベント「ブランド・デー」を2016年3月から半年に一度のペースで開催。写真は3月8日に開催された就航5周年記念パーティ(写真:Peach Aviation)

「ピーチの独自性はどうなるんだ」「普通になっちゃうのか」「終わったな」――。

2月24日、ANAホールディングスがLCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションを子会社化すると発表した。SNSなどネット上では、同社の行く末を憂う声が多く挙がった。

「“とんがったままでいてくれ”という期待がこんなに多かったんだなと、うれしくなりましたね。これまでは明確にそういった声を聞く機会がなかったですから」。ピーチの井上慎一CEOはそう話す。「こんな風に言われていますよ、とANAHD側には(ネットの声を)見せました」。

発表当日の夕方、ANAHDのほか、ピーチの株主である日本の官民ファンド、産業革新機構と香港の投資ファンド、ファーストイースタンアビエーションホールディングスの首脳がピーチ社員を集め、子会社化について説明した。「ANAの子会社になっても、独自性は担保されるのか」。社員たちが不安げに問うと、3社の幹部は異口同音に「独自性は保証する」と約束した。

フルサービスとLCCは「水と油」

ANAHDの片野坂真哉社長は子会社化発表の会見で、「ピーチは創業から6年で企業価値を大きく高めてきた。この価値を高めることが、HD全体の価値をも高めることになる」と、子会社化の狙いについて語った。

日本や中国、韓国を含む北東アジアの航空市場におけるLCCのシェアは10%強。一方で東南アジアでは5割を超えている。それだけLCCには成長の余地がある。

井上氏も「その成長余地をピーチに取らせれば、HDの価値にもなる。コードシェア(共同運航)やマイレージ提携、アライアンス加盟など、フルサービスキャリアと同じことをしてもピーチの価値は上がらない」と考える。

仮にANAとコードシェアをしても、フルサービスキャリアのファーストやビジネスクラスに乗ってきた客が、LCCの便への乗り継ぎを許容するかは疑問だ。「ピーチに“指図はしない”と言った片野坂さんは、このことを明確に理解しているはずだ」(井上氏)。

ターゲットは女性、社名が果物、機体はピンク、機内食には「ウナギ味のナマズ丼」。2012年3月、日本初のLCCとして関西国際空港に就航したピーチは、保守的な航空業界に関西のノリで新しい風を吹かせた。

「来週の女子会は、ソウルで焼き肉」「温泉に入りたいわ(ん)!」「前髪切りに行くためだけに、表参道。」「〆は福岡で博多ラーメン!」

ピーチはこの3月に就航5周年を迎えたことを記念し、毎日異なるテーマで航空券のセールを行っている。片道3000~4000円前後と破格だ。「普段のセールよりも売れ行きが良いんですよ」と井上氏は顔をほころばせる。

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