汚名返上なるか「アジアのサルコジ」 人気急落で政治基盤失う経済政策は全面見直しへ

また、世界各国でビジネスを行った経験から、「経済が国を動かすという信念を持っているのではないか」(西野氏)との考えも理解できる。ただ、「多様な人々がかかわるのが国政。効率や実用ばかりで済まないのが政治だということが、わかっていなかったのではないか」と小針教授は指摘する。

李大統領は、実は与党に政治的基盤がない。「サラリーマン神話」と呼ばれる経歴からくる国民の人気のみが、彼の政治基盤だといっても過言ではない。政界ではアウトサイダーで、アウトサイダーだからこそ「仕事ができればそれでよい」という実力主義一本でスタッフを固め、人格や環境などを無視して大統領府や閣僚の人事を行った。それが、土地の不正取引などのスキャンダルを招き、「富裕層スタッフ」と呼ばれて矢継ぎ早に人事を変更する事態に追い込まれた。

だが、さすがに李大統領もそのような政治スタイルを反省したかのように見える。6月に行った大統領府首席秘書官の刷新は、与党ハンナラ党との関係を重視した布陣となった。今回、大統領秘書室を政務チームと政策チームに分け、各チームのリーダーに国会議員を任命している。政策立案の実務は専門家に任せるが、成立のためには政治を熟知した者に任せるということだろう。

対外的信任損なった韓国の通商交渉

今回の事態で韓国は対外的信任を大きく毀損したのは間違いない。大統領が一度合意したFTAの内容について、あらためて交渉するという行為は、どう見ても普通ではないからだ。米国の通商政策関係者は、「対外交渉は政府対政府。だが、韓国のように政府と交渉して合意した内容に異議が唱えられると、いったい誰を相手に交渉すればよいのか困惑せざるをえない」と打ち明ける。また、アジア経済研究所の奥田聡・東アジアセンター長は「政府よりも国民の行動が読めないという見方が広がり、これがコリア・パッシングにつながらないだろうか」と懸念する。

さらに、資源が少なく国内市場が小さい韓国経済は、必然的に国際経済とのかかわりを深めないといけない。この点において、李大統領の経済公約の方向性は間違いではなかった。しかし、「キャンドル集会は民主的で平和な政府への物言いだ、と国民はいうが、経済問題をきっかけにあれだけ大規模な反政府集会を開き、実力を行使すること自体、国際的評価を落とすことにほかならないか」と奥田氏は疑問を呈する。

海外資金細る危険 長期的な政策転換へ

実際に、海外での投資促進セミナーなどで聞く韓国の評価は、人件費などの高コスト構造は仕方がないとはいえ、「デモなどを見ると労使間に不安が残り、進出には二の足を踏む」という海外企業の声は意外に多い。海外のエコノミストや財界人を大統領顧問に指名するなど、李大統領が海外投資の呼び込みに熱心なのも、海外からの投資で雇用を創出するのが狙いだったが、このままでは達成に弊害が出てきそうだ。

いずれにしろ、李大統領の経済政策である「MBノミクス」(MBは李大統領のイニシャル)は、全面見直しを迫られる。立案の前提も、中身も、そして環境も大きく変化しているためだ。また、MBノミクスを立案したスタッフも、今回の事態で政権から離れつつある。

当面は公共料金をはじめとする物価抑制といった、庶民経済に直結する政策に行動を縛られそうだ。成長主義から一転、後ろ向きの政策ともいえる。しかし「逆に今の状況がチャンスではないか」と奥田氏は言う。人気取り政策の化けの皮がはがれたため、「短期的な政策よりは、長期的な政策にシフトしてもいいのではないか」と提案する。

大統領就任4カ月で、政経両面において早くも正念場を迎えた李大統領。市場主義への賞賛から「アジアのサルコジ(フランス大統領)」ともてはやされた。しかし、今となってはサルコジ大統領と同様、やがて人気が凋落するという“皮肉な予言”だったようにも聞こえる。

(写真:JMPA)

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