「ドラギ発言」から1年、次なる行動は? 口約束だけで通じた局面は終わりか

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フォワード・ガイダンス

24日に発表された7月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)は約1年半ぶりに景気の拡大を示す数字となった。

しかしすべてが解決したと言うのは早すぎる。ユーロ圏の重債務国は依然、不人気な予算カットと改革に取り組む必要がある。危機で明らかになった通り、市場は気まぐれで一国への信認はあっという間に失われ得る。

市場が沈静化したため、ECBはOMTの発動条件を厳しくしてゴールポストを遠ざけた。発動しない可能性が高まった兆しだ。

ダンスケ・バンクのエコノミスト、フランク・オランド・ハンセン氏は「金融市場が落ち着き、景気が緩やかに回復に向かおうとしている今、彼らは本当はこの道具を使いたくない」と話す。

ドラギ総裁は今月、OMTの法的条件はこれまで公表されていないし、実際に発動準備が整うまで公表されないだろうと述べ、発動条件をめぐる不透明感が一層高まった。

ユニオン・インベストメンツのハーザム氏は「ドラギ総裁は約束を果たさずに済むことを望んでいる。ECBが『最後の貸し手』になるかどうかは講演の前まで不明だったが、今では総裁の約束に拘束されている」と語る。

しかし大規模な国債買い入れを余儀なくされた場合には、法的な影響が生じかねない。ドイツ憲法裁判所は既に、ECBがOMTの導入により権限を逸脱した可能性を検証中で、無制限の買い入れが始まれば同裁判所が行動を起こすかもしれない。

ドイツ政府の経済諮問委員会のラルス・フェル委員氏は「憲法裁判所は『限界を設けるべきだ』と言うしかないだろう。そうなればOMTはもはやバズーカではなく単なる機関銃になってしまう」と述べた。

ECBはもっと小さな戦いに勝利するため、武器の種類を広げようと試みた。

米連邦準備理事会(FRB)が資産買い入れ縮小計画を示すと、ECBはすかさず今月、市場の沈静化に動いた。政策金利は長期間にわたり、現行かそれを下回る水準に維持される見通しだと表明したのだ。

しかしながら、複数の政策当局者から矛盾するコメントが出て、ECBは低金利維持を約束したのではなく基本シナリオを示したに過ぎない、という見方が市場で醸成されると、この「フォワード・ガイダンス」の効き目は衰えた。

エコノミストは、こうした文言では市場を長期間にわたって落ち着かせるには弱すぎると見ている。

米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授はフォワード・ガイダンスについて、「声明を発表しない場合に想定されるのとは異なる、特定の行動様式を今後採っていくという約束を含んでいると受け取られない限り、効果を発揮しないだろう」と指摘。約束ではなく単なる予測を示すのでは「フォワード・ガイダンスの意図があいまいになり、逆効果を生む可能性さえある」と付け加えた。

フォワード・ガイダンスによって望ましい結果を得るには、ECBは「必要なことは何でもする」という口約束を超え、実際に行動を起こす必要があるのかもしれない。

(Sakari Suoninen、Andreas Framke記者)

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