30年後を憂うより目の前の仕事に手を抜くな

2017年も思いがけずに世界が一変する

トランプのアメリカでは、集団の細分化が急激に進行していています。それぞれの社会集団ごとに固有の「メディア」がありますが、それは集団の同質性を強めるためにしか働いていない。他領域との間を「架橋する」機能を果たしていない。一人一人が「自分が見たいニュース」を見ている。FOXニュースを見ている人の眼に見える世界と『ニューヨーク・タイムズ』を読む人にとっての世界はもうほとんど別のものです。だとしたら、それらはもう厳密な意味での「メディア」とは言えません。越境していないし、架橋していないし、媒介していないから。ただ、それぞれがクライアントとして持っている集団の「ニーズ」に合わせてニュースを選び出し、彩色して、配信しているに過ぎない。

今のメディアは「架橋する」役割を果たしていない(イラスト: しりあがり寿)

アメリカだけではありません。日本でもそうだし、ヨーロッパでもそうです。どこでもメディアがもう異領域を架橋する媒介の役割を果たさなくなった。

『GQ』の表紙に出てくる人も僕は実はほとんど知らないんです。テイラー・スウィフトが表紙の号がありましたけれど、僕はこの人の名前を聞いたことがなかった。自分が寄稿している雑誌のカバーストーリーが知らない固有名詞で埋め尽くされていると、自分はこの雑誌の読者に想定されていないのかと思うことがあります。でも、鈴木編集長が僕に連載を書かせているのは、放っておいたら出会うはずがない領域を「架橋」することが必要だと感じているからだと思います。

メディアの越境する力や架橋する力を最終的に担保するのは個人です。エルヴィスを世に出したのはサン・レコードのサム・フィリップスというプロデューサーでしたが、彼がエルヴィスをスタジオに招いて「好きなことやっていいよ」と言ったことでロックンロールが誕生した。鈴木さんが日本の出版界におけるサム・フィリップスになるといいですね。

――2016年も終わりました。2017年はどうなるでしょうか。今のうちにお尋ねします。

世界が一変する!

2016年は激動の1年でした。パリの同時多発テロが2015年の11月。それ以後、イギリスのEU離脱を問う国民投票、トルコのクーデター未遂、パナマ文書の漏洩、シリア内戦の泥沼化、トランプの勝利……と数え切れないほどの事件がありました。日本でも政治、経済、メディア、学術どの分野でも制度疲労とエリートの質的劣化が進行しています。もう負荷が受忍限界を超えていますから、どこかでもちこたえられなくなって「総崩れ」になる。でも、いつ、どこのセクションで、どのような破局的事態が生じるのかはわからない。

世界はますます先の見えない時代になってきました。2017年についても何が起こるかも、あちこちで訊かれるんですけど、ぜんぜん予測が立ちません。わかるのは「思いがけないときに、思いがけないところで、予想もしていなかったこと起きて、世界のありようが一変する」ということだけです。それに備えて心の準備だけはしておく。僕にできるのはそのくらいです。

(構成: 今尾直樹)

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