積水ハウス、「iPad」が可能にした震災対応 「熊本地震」翌日に専用アプリを配布

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実際には、使い勝手や効率性を左右するインターフェースと、既存のエンジニアのノウハウを生かせるデータベースアクセスの2つに分けて、スピーディでローコストの並列開発を行い、だんだんデータベースを担当していたエンジニアもインターフェース開発に取り組むようになった。

iPad導入で「働き方」が変わった

iPadは、積水ハウスの社内の働き方も変えている。上田氏によると、 平均残業時間は毎月15時間削減され、休日出勤も月平均0.5日削減されたという。

iPadやiPhoneでは、社外アプリの私的利用については、SNS以外の制限をしていない。とにかく使うことが大切で、働き方の中に深く根差すことを優先しているという。熊本地震アプリに、現場の担当者がすぐに対応できたことも、こうした日々の活用の成果だった。

社内の物件データベースを読み出すことができるアプリでは、地図上の場所、建物外観、設計図、使用されている部材などをすぐに表示することができる(筆者撮影)

現場の営業担当者である、東京南シャーメゾン支店長の黒川剛氏は、社内で配信されているアプリを利用して、たとえば地図アプリの航空写真と防災実験の様子、建物の3Dモデルを組み合わせたビデオを作成して顧客に見せることができるようになり、プレゼンテーション能力が大きく上がったという。

「土地活用の営業では、お客さまにITやビジネスに詳しい方も多いため、質問を会社に持ち帰らず、その場で実例などをお見せできる点が高く評価され、信頼につながることが増えています」

また設計部門では、現状、図面をiPadで作成するには至っていないが、打ち合わせの際のアイデアをiPadのスケッチアプリで示すなど、活用が始まっている。加えて、設計の承認には全職責者の承認が必要となるが、iPadを持ち歩いているため、どこでも承認を取ることができるようになった。

活用や独自のアプリ開発も含めて、「スピード」と「使い勝手」、そして「働き方の変革」が根底にある積水ハウスのテクノロジー活用。アプリの数、アップデートの数だけ、業務が効率化されていく様子をつぶさに見ることができる事例と言えるだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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