「満員電車ゼロ」に時差通勤はどれだけ有効か 1日利用者の何割がラッシュ時に集中?

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いつまで経っても解決しないように思える通勤電車の混雑。だが、実際に乗っていてどう感じるかはともかく、数値としては緩和されてきているのも事実だ。

2015年度の混雑率トップは、総武線各駅停車(錦糸町→両国)と東京メトロ東西線(木場→門前仲町)の199%。国土交通省による混雑度の目安では「体がふれあい相当圧迫感がある」状態が200%なので、辛い混雑であることは間違いない。

だが、国交省のデータによると、1986年度の東京圏主要31線区の平均混雑率は209%。今の最混雑路線を上回る混みっぷりが平均レベルだったわけだ。「楽になった」と言うにはほど遠いものの、この30年ほどで一定の改善が進んできたことはわかる。

ソフト面での混雑緩和は進むか?

かつての殺人的ラッシュが一応の改善を見たのは、時間はかかりつつも複々線化の進展や収容力の大きな新型車両導入、車両増結などハード面での整備が進んだ点が大きい。近年でいえば、2015年3月に開業した「上野東京ライン」は、それまで200%近かった山手線の上野-御徒町間の混雑率を一気に163%まで引き下げた。来年には小田急線の複々線化がいよいよ完成し、現在190%台の混雑率が160%台まで改善される見込みだ。

だが、ハード面での整備には時間も費用もかかる。小田急の複々線化には約50年の歳月を要した。さらに、ほとんどの路線は1日の利用者数に対してはすでにほぼ十分な輸送力を備えており、ラッシュのわずかな時間のためだけに多額の投資を行うことには限界もある。

たとえば、私鉄最長の複々線区間を誇る東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の小菅→北千住間の1日あたりの輸送量は20万2111人なのに対し、輸送力は43万2166人分と倍以上。混雑の激しさで知られる東急田園都市線の池尻大橋→渋谷間も、1日の輸送量31万8725人に対し、輸送力は42万1564人分ある(いずれも2011年度)。1日の輸送量のうちほぼ4分の1を占めるラッシュピーク時への集中を多少なりとも緩和すれば、既存のリソースでもある程度の混雑緩和が可能だろう。

小池都知事は会見で、通勤電車の混雑緩和は「社会の生産性向上のための重要な課題」であると指摘した。通勤客ひとりひとりや鉄道各社の取り組みだけでは限界のある満員電車の解消。社会全体を巻きこんだ仕組みづくりが進んでいくか、今後の都の政策が注目される。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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