「初也も巧也も育也も自分が選んだ道。大変だったと思うがよく頑張ったと思う」と初広さんは言う。「息子たち3人全員が自分と同じ道を進んでくれたのはうれしい。おっかあ(愛さん)のおかげだよ」と家族に感謝する。愛さんは「親としては一区切りだけど、子供たちはようやくそろってスタートラインに立ったばかりで、これから荒波の中に出ていく。とにかく無事を祈るしかない」と、母としての心配な気持ちをのぞかせる。
初也さんは2014年3月にデビュー。同年、関東の新人トップの12勝を挙げた。巧也さんは2016年3月にデビュー。積極的な騎乗を武器に東西の新人のトップとなる45勝を挙げてJRA賞の最多勝利新人騎手を受賞した。巧也さんの活躍に刺激を受けた初也さんも昨年は自己最多の18勝を挙げた。6月にはフランスのシャンティイ競馬場で世界10カ国の若手騎手を集めて開催されたロンジン・フューチャー・レーシング・スター賞にJRA代表として出場し、14頭中3着となった。
兄弟がお互いにライバルとして張り合い、お互いを意識しながら切磋琢磨し成績を挙げている。育也さんは「兄(巧也さん)の45勝の記録を超えて新人賞を取りたい。国内のGⅠをすべて勝てるような騎手になって海外でも活躍したい」と夢を膨らませる。初也さんは「ライバルだがアドバイスもしていきたい」とエールを送り、巧也さんは「家族みんなでお互い負けずに頑張りたい」と闘志を燃やす。そんな子供たちを見ながら、初広さんは「自分を超えてくれなければ超一流にはなれない。頑張ってほしいね」と目を細める。
震災から6年、新たな家族の夢
昨年、最多勝利新人騎手を獲得した巧也さんにとって父の存在は大きかった。「同じ騎手としてアドバイスをもらえるのは心強かった。頼りにしている」と信頼を寄せる。初広さんと初也さんと巧也さんが騎乗後にパトロールフィルムを見ながらレースを振り返る姿を目にすることは多い。
これからデビューする育也さんも「父や兄2人が身近にいるのは心強い」と語る。おそらく今後は4人でレース後にお互いの騎乗を振り返るのだろう。子供たちは「父は尊敬する存在」と口をそろえ、父と同じ道を歩む。これほど幸せな父親は今の日本中を探してもそういるものではない。
育也さんは3月4日、中山競馬場でデビューを迎える。
今年の新規騎手免許試験を前に、正月に全寮制の競馬学校から茨城県美浦村の自宅へ一時帰宅した育也さんを家族は励まし、茨城県牛久市にある初身さんの墓参りに家族で出掛けた。「孫たちが3人とも騎手になると知ったら、オヤジが誰よりも喜んだはず」と初広さんはしみじみ語る。東日本大震災の津波で実家が被災してから間もなく6年になる。実家は今年に入って取り壊された。
「初也が入学したのが震災直後で、自分は45歳だった。6年は長かった。それでも自分が現役を続けられて、4人で騎手生活が送れるのは幸せなこと。4人で騎乗するのは夢だったが、それが現実になる日が近づいて本当にうれしい。4人で同じレースに騎乗するのが楽しみ。それが福島でできたら最高だね」と初広さんは新たな夢を描く。
それは4人の、いや、家族5人の夢だ。木幡家の新しい挑戦が始まる。
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