JR「経営多角化」のモデル、実は近鉄だった JR九州初代社長が明かす国鉄改革成功の理由
社員一人ひとりの能力は高い。国鉄という組織が個人をダメにした。出向先ではみな頑張って評判が良かった。お客様マインドと民間経営の厳しさ、それにその業種のノウハウを学んで帰ってきた。
JR九州、北海道、四国の「三島会社」はJR東日本、東海、西日本という「本州三社」と違って鉄道が赤字。多角経営でその分を稼がねばならない。出向組が持ち帰ったお客様マインドとノウハウは大変役に立った。
彼らは小さな関連事業で生き生きと働いた。一方の経営陣は、「そろそろ定年ですから関連のほうにまいることになりました」などと言って関連事業の社長に納まる。これではダメだ。将来経営の中枢を担う優秀な部長クラスを関連事業の社長などの責任者として発令し、そこで実績を上げなければ鉄道事業の役員にはしないという雰囲気に変えた。
「こんな優秀な人がやってくるのか」。関連事業の社員のモチベーションも上がり、鉄道と関連事業は同格だという意識が芽生えた。
分割民営化は「正解」だった
民営化は当然だ。国鉄はルールを経営戦略と間違えていた。ルールは歯止めであって、経営は地域、業界、時代に適合できるように、できるだけ自由でなければならない。大組織を分割するなら地域分割が適している。日本は細長く、地理環境、人口分布、気象条件などは地域によってさまざま。各地で事業の基本が違う。
そもそも鉄道という事業は人口密度に比例して収益性が決定的に変わる。自動車、航空機、船舶との違いは、走る車両、地上の線路、電気系統が一つのシステムを構成していることだ。事故が起こっても原因は血の通った議論をしないとわからないし、速度の向上には車両・地上の共同作戦が必要だ。要するに鉄道の運行と地上設備の管理を切り離す上下分離はあまり良くない。
ヨーロッパでは国営鉄道の改革に際して上下分離を採用したが、一面では苦労している。また日本に比べヨーロッパは地理環境が多様ではないし、どんな仕事でも組織内の分担がはっきりしているが、日本ではサービスや技術開発は組織あげての仕事だ。地域で分ける日本の「分割民営化」は日本にとって「正解」だった。
分割した旅客6社と貨物会社は発足時に収益調整をしてスタートした。鉄道が黒字の本州三社には総額で5兆円を超える債務を付けた。国が肩代わりした30兆円近い借金の一部だ。収入からその金利分を支払わねばならない。
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