自殺のキヤノン研究者に労災認定−−会社の管理責任はどこまで追及される?

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自宅への持ち帰り仕事で企業の責任はどこまで問われるのか?

労災申請が認められた今回の事件だが、雇用主のキヤノンの責任について、どう考えるべきだろうか。会社側では、午後10時以降の残業には上司の承認を必要とする体制をとっており、自殺直前の男性の残業時間も月40時間以内に収まる程度だった。だが、遺族代理人を務める弁護士側の計算によると、自宅への持ち帰り仕事を含め、男性の残業時間は自殺直前期には月200時間超に達している。少なくとも、表面的には会社が強要した形跡はない。こうした状況で、どこまで会社側の責任が問われるのか。

本件で遺族の代理人を務める川人博弁護士は、2000年に下された電通社員の過労死自殺に関する最高裁判所の判例を挙げ、「上司は業務量を適切に調整する義務がある」と指摘する。

これは1991年、当時電通社員だった24歳の男性が、過労により自殺したことに対し、遺族が会社を相手どって起こした損害賠償請求だ。この事件でも、上司は、連日泊まり込みでの残業を続ける男性に対し、帰宅してきちんと睡眠をとるよう指導を行っていた。だが、最高裁は「恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかった」(2000年3月24日最高裁判所第二小法廷判決)として、電通側の過失を認定、被告・原告両者は最終的に1億7000万円弱の賠償金支払いで和解している。

キヤノンのケースについていえば、「『10時になったら帰りなさい』と言ったから、会社側の責任は免除されるのか。そうではない。上司は男性の業務進捗が遅れ、深夜まで残業をしていることを把握していたはずだ。そうでありながら、適切な労働管理を行っていなかった。そこに、キヤノンの最大の責任がある」。川人弁護士はそう苦言を呈する。

今回の事件では、亡くなった男性の仕事が研究施設ではなくコンピュータ上で行う業務であったことが1つの起因要因となっている。コンピュータとメモリさえあれば自宅でも行えるこうした仕事の場合、会社側は「メモリ持ち出し禁止」など、持ち帰りで残業ができない仕組みを作るところまで、配慮が求められるだろう。そうした社員の労働実態に基づく適切な対応策の有無までもが、企業の責任として問われる可能性がある。

今回の労災認定を受けて、キヤノンは「これを事実として厳粛に受け止め、誠意をもって対処していきたいと考えています」とコメントを発表した。遺族側は労災保険金だけでなく、会社側に対しても補償を求めていく意向で、7月からキヤノンと交渉を開始する予定だ。

「日本では、過労自殺のうち、労災申請し表面化するのは5~10件に1件。これは氷山の一角にすぎない」と川人弁護士。先ごろトヨタ自動車も従来社員の自主的な活動としてきた「カイゼン」活動に残業代を全額支払うことを決定するなど、従来会社側が実質的に見て見ぬふりをしてきたた従業員の自主的な業務活動に対し、管理や処遇の責任が会社側に求められる流れができつつある。キヤノンをはじめとする大企業がそれにどう応えてゆくのか。会社の経営姿勢が問われるとともに、そこにはわれわれ日本人の働き方の未来がかかっているといっても過言ではない。
(桑原 幸作記者 =東洋経済オンライン)

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