ドイツの教育学者、エリカ・シューハルト氏はハノーファ大学の教授であり、連邦議会の議員としても活躍した方です。危機に遭遇した人の自伝や闘病記など2000冊以上を詳細に分析し、危機に直面した後にたどる“魂”の変化として、8段階のスパイラル(螺旋)モデルを提唱しました(『このくちづけを世界のすべてに ベートーヴェンの危機からの創造的飛躍 』(アカデミア・ミュージック)には、以下に記すような“魂の成長過程”が示されています。
病気を“受容”するまでの8段階
人生の危機に直面したとき、まずは第1期の「一体何が起きたのだろう」という状態に直面します。その後、第2期の「そうなのか、いやそんなはずはない」という理性と感情がぶつかり合う二律背反的な確信に移行し、第3期には「なぜ、この私が」という攻撃的な状態になります。それが、第4期に「もしそうなら、こうに違いない」という折衝となり、第5期は「何のために……すべては無意味か」といううつ状態に陥ります。それが、第6期になると「今ようやくわかった」という甘受に至るのです。
この過程は、ドイツの精神科医であるエリザベス・キューブラー=ロス博士が著書『死ぬ瞬間―死とその過程について』の中で提唱した、終末期の患者が死を宣告されてから、受容に至るまでの5段階と類似するものです。
ただ、シューハルト氏のモデルの新しさは、これ以降にあります。第7期の「これをやろう」という活動、そして第8期の「一緒に対処しよう」という連帯へとつながることで、魂が成長していくのです。シューハルト氏は、危機を乗り越え闘病記を書くまでに至った人を対象としたことにより、活動から連帯に至る過程を見つけることができたのでしょう。
第6期の甘受(英語のacceptance)は、「わたしはここにいる。わたしにはできることがあり、それをやろうと思う。わたしを受け入れ、わたしはわたし個人の独自性とともに生きる」と考える時期であると解説されています。
すでに、甘受の時期を経過し、活動や連帯の時期に至っているだろうと思われる患者さんに、このモデルについてお話ししたとき、「わたしは自分の病気を受け入れてなんかいない」と言われたことがあります。甘受や受容という日本語のニュアンスが、その方の心境には合わないのかもしれません。
しかし、甘受は、単なるあきらめではなく、経過段階のⅡ期から目的段階のⅢ期(第7期、第8期)に至るための大きな転換点とされています。この転換点で、その人の問いは「なぜ(why)」から「どのように(how)」へと転換し、過去にばかり向いていた視線が、現在そして未来へと向けられるのです。
小林麻央さんのブログには、開始当初に「あの時、あの時、あの時……」とつづられていました。過去を振り返って後悔をする。しかし、過去を変えることはできない。理屈では理解していても、堂々巡りから抜け出せない。そのような状況が経過段階のⅡ期であり、第6期の甘受を経て、目的段階のⅢ期へと移行するのです。
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