引退したアスリートは、その後何ができるか 元プロサッカー選手のセカンドキャリア論

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「前へ踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」は、競技レベルが上がるにつれて、より高いレベルで要求されるようになる。つまり、競技レベルの高い環境に身を置くアスリートは、平均値を大きく上回る3つの力を身に付けているはずだ。

そして、厳しい競争を勝ち抜いてきた、ということも彼らのポテンシャルを裏付ける指標の1つだろう。他の職業と単純な比較はできないが、自分になじみのあるサッカーを例に考えてみたい。

プロサッカー選手になることは、どの程度難しいのだろうか。2015年度のデータを基に算出してみると、15歳以上の男性のサッカー人口は約33万人、例年プロ契約を結ぶのは120人程度なので、その確率はわずか0.036%である(※JFAウェブサイト参照。原則的に表の「第1種」と「第2種」が15歳以上の男性)。

つまり約3000人に1人しかプロ契約を勝ち取れない。もちろん、33万人全員がプロになるためのトライアルを受けるわけではないため、この数字の妥当性は議論の余地があるが、厳しい競争を勝ち抜かなければプロ選手になれないのは紛れもない事実だ。これはサッカーだけではなく、他の競技でも同じことだろう。社会で生きていくということは、多かれ少なかれ競争である。そのことを考えると、この「競争力」はアスリートの大きな武器であり、スポーツ以外の分野でも大いに活用可能な力なのではないかと思う。

アスリートは、社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な力と競争力を有する。そう考えるなら、アスリートは引退後も幅広い分野で活躍し、社会に貢献できるはずだ。

引退後の困難には2つの理由がある

しかし、現状は必ずしもそうではない。引退後の就職先で力を発揮できずにくすぶってしまう元アスリートは数多い。また、セカンドキャリアの選択肢が、指導者をはじめとする競技に関連する仕事であったり、もしくは企業に就職するにしても、スポーツ関連業界や営業職など業種・職種が極端に限られている。これにはさまざまな原因が考えられるが、大きく分けてアスリート側の問題と、受け入れる側(日本社会)の問題とがあると思う。

アスリート側の問題を名付けると、「自分はスポーツしかやってこなかったので症候群」となろうか。プロ契約選手として、または実業団の選手として競技を続けているアスリートに会うと、「自分はスポーツしかやってこなかったので……」という言葉を頻繁に聞く。しかし、先述したとおり、そうしたアスリートは競技を通じて社会で活躍するために必要な力を高いレベルで身に付けているはずだ。

しかし、そのことを自分自身が認識していないために、「自分はスポーツをしてきたので、それを通じて身に付けた、考え抜いて計画的に物事に取り組む力があります!」といった言葉ではなく、「自分はスポーツしかやってこなかったので……」という、まるで競技を続けていることがマイナスであるかのような言葉が出てくる。

なぜこうなってしまうかというと、競技を通じて身に付けたことを、ただ競技の文脈の中でしか考えていないからだろう。幅広い分野で活躍できる力があるにもかかわらず、狭い領域で自分の能力を考えてしまうアスリートが多い。つまり、自身の分野で身に付けた能力を他分野に「横展開」し、どのように活用できるか思考する力である「一般化力」が欠如しているのだ。

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