引退したアスリートは、その後何ができるか 元プロサッカー選手のセカンドキャリア論

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JFLのV・ファーレン長崎とガイナーレ鳥取の試合中、激しく競り合う筆者の阿部博一(写真中央)。サッカー選手を引退後、シンクタンク研究員やFIFA傘下団体職員としてのキャリアを歩んでいる(写真:筆者提供)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで約3年半。世界有数の都市である東京での開催、また、オリンピック・パラリンピックを2度開催するのは東京が初めてということもあり、東京大会に国内外から寄せられる期待は大きく膨らんでいる。

今大会は、大会運営そのものの成功ももちろんだが、おそらくそれ以上にオリンピックを通じて社会に何を残せるかという「レガシー(遺産)」という考え方が注目されている。世界的に見ても成熟した都市である東京。だからこそ、インフラなどの目に見える「有形レガシー」ではなく、目には見えないが社会にポジティブなインパクトを与える「無形レガシー」が特に重要になるはずだ。

では、大会を通じてどのような「無形レガシー」を残すべきか。個人的には、引退したアスリートが、競技生活を通じて得た能力を活かし、次のキャリアで活躍できる社会。これこそが残すべき最も重要な「無形レガシー」だと考えている。

実はアスリートが身に付けている「社会人基礎力」

身体能力やスキルなど一義的なところに注目が集まりがちなアスリートだが、実は競技を通じて、社会で生きていくために必要な力も高いレベルで身に付けている。経済産業省は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力(社会人基礎力)」として、「前へ踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つを掲げている。この社会人に必要とされる3つの力は、同時にアスリートが成功するために不可欠な要素でもあり、多くのアスリートはこれらを高次元で備えているのだ。

僕は2010年まで、JFL時代のVファーレン長崎でプロサッカー選手としてプレーした。トップ・オブ・トップのアスリートではなかったが、「前へ踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」は、つねに高い水準で求められていた。

チーム内のメンバー争いを勝ち抜くためには、主体的に練習に取り組みアピールする必要があったし、シーズン中ほぼ毎週試合がある日程の中では、勝っても負けても、すぐに次の試合に向けて切り替えて動き出す「前へ踏み出す力」が必要だった。また、どうすれば試合に使ってもらえるか、チーム内のライバルにない自分の武器は何か、対戦相手にとって嫌なプレーは何か、徹底的に考え、トレーニングに反映していた。そして、試合から逆算してトレーニングを計画し、本番の試合で最大限のパフォーマンスが発揮できるようにマネジメントしていた。

このような「考え抜く力」は、高いパフォーマンスを追い求める過程で無意識的に身に付いた。当然、「チームで働く力」は11人でプレーするサッカーにおいてはマストだ。フィールド内外でチームメンバーと積極的にコミュニケーションを取ることで、相手に自分の考えを伝え、相手が何を考えているかを読み取り、仲間と高いパフォーマンスを創り出していった。

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