ボナセーラ!!と元気な出だしだが、実は、つい先ほどまで私は死にかけていた。本日は冒頭の物語の部分が長くなるが、ぜひ、我慢してお読みいただければ幸いだ。
ものの30分前にローマのホテルの近所のレストランで、それはそれはおいしいパスタとピザを食べ、ワインの2杯目を飲みだして母と談笑していたところ、気づけば床に私が倒れていて、こめかみから大量の温かい血が流れ出ている。床一面に血だまりができ、次に気づいたのは私が椅子に座らされていて、母と店員のおじさんが氷とタオルで私を止血している場面だった。
「大丈夫か、わかるか」と、母とイタリア人の主人に繰り返されていて、最初は返答もできなかったのだが、徐々に意識が戻ってくるものの、記憶がはっきりしない。「そもそもなぜ俺が床に倒れていて、血がいっぱい流れていて、この血は俺のなのか?」――もうろうとしながらも自問しているわけだが、どうやらまだ生きているようだ。ただこの“生きているようだ”という感覚が最後の自覚になって、あまりにも血の量がすごかっただけに、その数秒後に死ぬのでは、と思ってしまった。
その後、イタリア人のご主人がアルコール消毒薬を持ってきて、鮮血に染まった私の腕や足を拭いてくれている。いつもヒステリーで感情的な母は、声を一切荒げず、黙々と私の頭部から流れる血を止めていた。このとき“母は強し”で驚くほど冷静沈着に、私の止血に黙々と励んでいる。(私が)死にはしないと思ったらしいが、脳梗塞で半身不随になった知人と重なり、今後、植物状態になるであろうこの巨体をどうやって家に連れて帰ろうか考えていたらしい。
私の中では数秒間、意識を失っただけという感覚なのだが、母曰く、3分程度意識を失い血を流し続けていたらしい。なお頭から地面に落ちたわけではなく、腰からうつぶせに倒れるように崩れ落ち、その中で頭部をテーブルの角で強打したために、こめかみの動脈が大きく割けたようである。
驚くほど親切に介抱してくれたイタリア人のご主人は、「救急車を呼ぼうか?」と言ってくれている。しかしホテルは歩いて2分の距離、このくらい歩いて帰って安静に眠りたいと思い、お礼を込めてチップを多めに渡して、頼んだ直後で口もつけていない2杯目のワインをこの期に及んで口惜しく思いつつ、近くのホテルを目指したわけだが、ここで最大の落とし穴が。
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