「日本の柴犬」が韓国で人気犬種になった理由

「チヒロ」や「ダイゴ」など和風の命名も

「最近は柴犬人気に乗じて、韓国でも柴犬のブリーディングを専門的にする人も出てきています。私自身、ブリーディングしながら、柴犬の質を高めるためにもっともっと勉強しなくてはと思っているし、他の人もそうあってほしいと思っています」(チェさん)

その日の集まりには日本犬保存会の関係者も招待されていた。韓国で柴犬の集まりがあると聞いて、まずは驚いたという。この関係者は顔をほころばせながら、こう語った。「今回、呼んでもらって初めて来ましたが、質の高い犬が何頭かいて、いいですよ。うれしいです。日本犬保存会も最初はこうした集まりから始まりましたから、韓国でも大きな広がりをみせてほしいです」。

柴犬の同好会を立ち上げたチェ・イファンさん。柴犬で権威のある日本犬保存会での受賞はブリーダーとして大きな喜びで、会員にも入会を勧めているそうだ(撮影:筆者)

集まりに参加した飼い主に柴犬を飼い始めたきっかけについて聞くと、「(人気ブログで書籍化もされた)『Maru in Michigan』で見て、なんてかっこいい犬だろうと思って」という人や、「(テレビドラマ・映画の)『マメシバ一郎』を見て、柴犬のとりこになった」という人、そして「精神的に疲れたとき、もともと犬が好きだったのでネットで検索していたら、その中で目を引いたのが柴犬でした。癒やされて、もう飼うしかないって思って(笑)」とネットで偶然見つけたという人も多かった。韓国で購入した場合もあれば、日本まで足を伸ばしたケースもあった。

「本当に柴犬なのか」という飼い主の不安も

シバナラの集会がお開きに近づくと、チェさんや日本犬保存会の関係者の前に長蛇の列ができた。皆が熱心に、どう育てればよい犬になるかなどを尋ねていたが、圧倒的に多かった質問が「うちの犬は本当の柴犬か」というもの。「柴犬だと言われて買ったら、大きくならないし、姿も違う気がして」から「柴犬特有のダイヤモンドアイ(切れ長の目。日本ではアーモンドアイ)ではないのですが、柴犬でしょうか」など不安そうな顔で尋ねる人もいた。

「柴犬人気に乗じて(別の犬種を掛け合わせた)ミックス犬を売る業者もいますから。柴犬だと思って購入したものの、実はミックスだったという人もいます」(チェさん)。韓国での柴犬の価格は60万ウォン(約5万8000円)~150万ウォン(約14万5000円)。他の小型犬と比べると2倍から3倍の価格だ。こうした柴犬人気に日本の柴犬のブリーダーと韓国の消費者を仲介する人も現れた。サイトをのぞくと、30万円の価格がついた柴犬もいた。

柴犬だからか、ネーミングも和テイストが目立ち、「テツ」「ハル」「ハヅキ」「チヒロ」「ダイゴ」など。日本よりも日本らしい名前のオンパレードで、韓国でこんな名前に出合うとは思ってもみなかった。

韓国でのペット市場はここ4~5年で急速に拡大していて、2012年に9000億ウォン(約873億円)だったのが、2015年には1兆8000億ウォン(約1746億円)、今年は2兆3000億ウォン(2231億円、農協経済研究所ほか)まで膨らむとみられている。一軒家よりもマンションが多い住宅事情もあって人気は小型犬中心だ。

韓国犬といえば、1962年に韓国の天然記念物に指定された珍島犬がいる。原産地の韓国南部の珍島からその名がついた。姿・形も、また飼い主に忠実なところや清潔さを好むなどの性格も柴犬と似ている点が多く、「一度珍島犬を飼うと他の犬は飼えなくなる」ともいわれる。李明博(イ・ミョンバク)前大統領や朴槿恵(パク・クネ)大統領も飼っていて、金大中(キム・デジュン)元大統領は珍島犬2頭を、北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記との南北会談時に贈ったことでも知られる。

珍島犬も保存や継承のためにいくつかの協会があり努力が続けられている。しかし、成長すると体高が平均50センチメートル、体重も20キログラム前後の大型犬になるため、「最近の韓国の住宅事情に合わないと敬遠される傾向にある」(ペットショップ)という。柴犬人気の理由は、珍島犬よりもサイズが小さいところにもあるようだ。

日韓の国の間の溝はなかなか埋まらないが、こんな文化の交わりから互いが見えてくることもあるだろう。柴犬を育てている者としては、韓国での柴犬人気が一過性のもので終わらずに、長く愛され、大事に育てられてほしいと切に願うばかりだ。

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