「日本の柴犬」が韓国で人気犬種になった理由

「チヒロ」や「ダイゴ」など和風の命名も

「うちの柴犬は雌なんですが……」。恐る恐る言うと、男性は「うん? いや似ている」そう何度も繰り返す。「豊臣秀吉を見たことがおありですか? 似ているっていうのは顔立ちのことですか」とこちらも畳みかけたが、男性はやや憮然とした顔をしながら、それでもただ「いや、うん、似ている」と繰り返した。

こんな経験は1度だけだったが、それだけ柴犬の存在は知られていなかった。それが今では、どうだろう。連れて歩けば声を掛けられるし、決して大げさに言っているのではなく、感動のあまり目頭を熱くする人までいるほどなのだ。

特に若い世代からは絶大な人気で、散歩中に中学生から声を掛けられたこともある。どうして柴犬を知ったのかと聞くと、日本で人気のK-POPスター、BIGBANGの所属事務所社長が飼っている柴犬がテレビで紹介されたらしく、「かわいくて印象的だったのでネットで調べて知った」と教えてくれた。

柴犬好きや柴犬に関心のある人が集まる同好会もある。最大規模なのは「シバナラ」(柴の国)で2012年1月に設立され、会員数は2万0300名ほど。年に2回、全国で定期的な集まりが開催され、飼い主同士の懇親も盛んだと聞き、昨年11月末の集まりに筆者も足を運んでみた。

柴犬同好会のイベントで感じた熱気

会場に足を踏み入れた瞬間、柴犬ワールドが広がった。ソウル市の隣、仁川市郊外の広大な敷地に見渡すかぎりの柴犬。リードから放たれて追いかけっこをしていたり、フェンスにつながれて忠犬ハチ公よろしく(ハチ公は秋田犬だが)ご主人様をじっと待っている柴犬もいた。がっちりした体格の犬もいれば、小型の「豆柴」だとしてもあまりに小さい体格の柴犬もいたり。入れ替わりもあったが、この日300頭近くが集まったという。

「シバナラ」の発起人、チェ・イファンさん(36歳・男性)は柴犬の魅力にはまり、2年前に脱サラ。現在は柴犬のブリーディングを専門に行っている。柴犬との出会いは高校生のときにさかのぼる。「幼い頃から犬が好きでした。あまり吠えなくて、家で育てられるくらいの大きさの犬はいないかと思い、探すうちに柴犬の存在を知ったんです」。

柴犬同好会のイベントは、柴犬と飼い主らの熱気であふれていた(撮影:筆者)

それから韓国中を8カ月余り探し回り、ようやく柴犬を見つけた。チェさんの話では、柴犬が韓国に渡ったのは1980年代の終わり頃で、柴犬のブリーダーをしていた日本人が、珍島犬を育てていた韓国の知人に25頭を送ったのが始まりだそうだ。ただ、送られた柴犬はその後、あちこちに散らばってしまったため、韓国で純粋な柴犬を探すのは難しいといわれてきた。

筆者も柴犬を育てたい、育てようと決めた後、韓国中を探し回った。日本から連れてくるのは体に負担がかかるだろうと思い、避けたかったのだが、ブリーダーからも「韓国で純粋な柴犬を探すのは時間がかかるし、丈夫な子が欲しくて、血統のことも考えるなら日本から連れてきたほうがいい」と言われた。

チェさんが熱を込めて柴犬の魅力を語る。「柴犬を育て始めて1年、2年と年を重ねるごとにすごく楽しくなってきました。柴犬は物事の吸収力が高く、どんどん違う犬へと成長していく。めったにほえないし、賢いし、すっかり柴犬にはまってしまいました」

そうして柴犬好きが高じて会社を辞め、柴犬のブリーダーの道を選んだ。今は日本から連れてきた30頭を育てていて、日本犬の調査研究や普及活動などを行う「日本犬保存会」が開催する大会にも出場し、埼玉地区などで賞も受賞している。

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