パナが「テクニクス」育成に力を入れる理由 唯一の女性役員が語る苦闘と本音

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世界で最も多く売れたアナログターンテーブルでもあるSL-1200シリーズだが、その原型とも言えるSL-1200Mk2が生まれた1979年当時の価格は550ドル。その後、モデルチェンジを重ねても機能やデザインは変更せず、価格もほとんど変わらなかったが、新生テクニクスが発売したSL-1200GAEは4000ドルと高価だった。

大幅な高価格化に失望したかつてのファンたちからは批判の声も小さくない。DJプレーに使うには高価過ぎる、高級製品になってしまったことは否めない。

「まずは、誰が聴いても素晴らしいと言ってもらえるような品質、音質を実現する必要がありました。トーンアームの設計ではテクニクスのOBにも協力してもらい、最高の音質を求めて可能な限りの手を尽くして復活させ、高級オーディオブランド・テクニクスのアイコンとすることを目指しました。そして今回のCESで発表したSL-1200GRは、コストダウンによって半分の価格を実現しながら品質を大きく落とさないことに成功しています。かつてのSL-1200シリーズファンを捨てているわけではありません。まずは高音質、高品質し、ブランド価値を高めることが必要です。長い目で見てほしい」と、小川氏は訴えた。

何よりも高音質、まずはブランドへの憧れを作りたいという強い意思の背景には、画質や音質を追求することで、映像・音楽を生み出すアーティストやクリエーターの創作を可能なかぎり忠実に伝えることで感動を伝えたいというストレートな思いだ。

パナソニックはかつて、DVDあるいはBlu-ray Dsicの立ち上げ時に、本業ではないオーサリング事業とオーサリング向けMPEGエンコーダの開発に力を入れ、ディスクの高画質化に寄与した。ハリウッドに研究所を置き、映画制作サイドのニーズを拾い上げながら、“映像製作者視点で見た、あるべき画質”を模索するためだ。

パナ製品全体に“高音質”を提供する

2017年、新たにラインナップするグランドクラスの新製品と小川理子役員(写真:筆者撮影)

新生テクニクスの原点もそこにある。「憧れの存在を家電という枠組みの中で、いかにして生み出すか(小川氏)」という目標に対して、まずはベルリンフィルと協業し、エンジニア自身が音楽家と交流し、コンサートと演奏の実際に触れることで、メーカーの独りよがりではない高音質を目指す。

その結果として、テクニクスの活動がパナソニック製品全体に“高音質”という価値を提供する。たとえば欧州向けに発表したOLEDテレビのEZ1000には、テクニクスが開発した新しいスピーカーを採用した。今後、テクニクスのブランドが高まっていけば、他者協業なども期待できる。

「テクニクス事業を、またどこかで放棄するのではないか?と言われることもあります。しかし、われわれは長期視点で投資をし、パナソニック製品の価値を高めるために取り組んでいます。中途半端にやめることはしません。たった2年で私たちは10種類もの製品を発表しました。部品サプライヤーとの取引もなくなった後、ここまでして作るブランドです。お客様の期待に応じられるよう、一歩づつ進んで行きます」

小川氏は、こう力強く宣言した。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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