「人になれたストレスの少ない良質のサルが自慢」 非臨床試験のイナリサーチ
Q: 会社設立のきっかけについて教えてください。
A: 1974年に数人のメンバーがプレハブ小屋で非臨床試験を開始しました。その頃、製薬メーカーは、非臨床試験を大学に受託する傾向が多かった。まだまだ市場としては小さかった時代です。
Q: 82年に日本でもGLP(優良試験所基準)が施行され、大学などの公的機関から民間委託が進みました。(民間企業にとって)市場拡大が進んだわけですね。
A: そう。GLP基準をいち早く満たしたことが、その後の成長につながったと思っています。ただこの時期は参入も多く、淘汰された企業も多かった。それほど大きくない市場規模の中に、一時期は50社近くありました。GLPを満たしていると言うだけで他に特長がなければ、どうしても価格競争に陥ります。業界全体が低成長で、先行き不安が立ちこめていました。
Q: 92年に「サルを使った非臨床試験」を開始したことで、成長が一気に加速しましたね。
A: サル試験は今主力の非臨床試験の中でも主力の事業です。低成長ではあったけれども、何か特長を見いださなければ生き残れない。そう考え、思い切ってサルに投資をすることにしたのです。フィリピンへ行き、現地のブリーダーと交渉して、子会社「INARP(イナアールピー)」を設立しました。92年11月に試験棟を建て、サル試験の受託をスタートしたのです。これが効を奏し、現在、サル試験の受託売り上げは11億円(売上高の33パーセント)にまで成長してくれました。今後もさらに強化していきたいと考えています。
Q: 他の動物実験と比べて、サル試験の優位性はなんでしょうか。単純な発想ですが、サルが人間に似ているから?
A: そうです。サルがヒトと遺伝子学的に似ているという点が主ですね。とりわけ「バイオ医薬品」の開発には有効です。ラット(ねずみ)の相似性が86%であるのに対し、サルだと遺伝的な相似性が96%にまで上がります。また、参入が難しく付加価値が高いので、粗利率も他の動物試験に比べて約50%と良いんです。(参考:ウサギやマウスなど他の小動物試験の粗利率は20~30%)
Q: イナリサーチのサル試験の強みは何でしょうか。サルの輸入頭数(年間)だと、ライバルの新日本科学は3000頭、イナリサーチは800頭と開きがあります。
A: 非臨床試験の国内最大手は新日本科学、イナリサーチは2番手です。ただ、ほかには負けない特長があります。まずは、独自試験が多いということ。「サル催不整脈モデル」は世界でも当社だけが行っている試験です。催不整脈、すなわち心不全の治療薬の試験ですが、日本では2月に特許を取得しました。動物モデルでの特許取得は、大変珍しいと言われています。現在、北米やイギリスでも特許を申請中です。ほかにも「薬物依存性試験」、「無麻酔眼圧測定試験」は国内では当社だけが実施している試験です。もともと粗利率の高いサル試験ですが、独自試験だとさらに高い粗利率になります。
次にフィリピンの子会社INARPでサルを育成し、どこよりも良質の実験用サルを確保できているということです。サルは非常に敏感な動物です。実験動物として良質であるためには、ヒトに対する馴れ、というものが非常に重要になってくる。フィリピンの現地ブリーダー3社のうち、INARPは1社と独占契約をしています。1歳半のサルを現地ブリーダーから購入し、1年間INARPの施設で育成します。この間にしつけをしっかりと行い、ヒトに接することで発生するストレスを極力少なくします。また、微生物学的コントロールを徹底し、病気のサルを排除します。
Q: コスト面はどうなのでしょうか。
A: 製薬メーカーの自社実験用でサルを購入する場合、通常は商社を経由したルートを使います。当社も自社供給の追いつかない分は商社から購入しています。サル1頭の値段は自社供給で30万円強、商社ルートだと平均50万円。(参考:毒性試験では1試験で24から36頭のサルを使用)金額の差以外で言うと、商社経由では弊社のような1年間の育成期間がないわけですね。個体差もばらつきがあり、ヒトに馴れていないサルがやってくるわけです。ストレスいっぱいのサルと長期間にわたる実験、品質の差は明らかではないでしょうか。高い品質の試験を安定継続していくためにも、自社供給比率を高めていきたいと考えています。
現在、INARPからは年間500頭の供給ができました。残りの300頭は商社ルートでの輸入です。今期はINARPから600頭を供給予定です。
Q: 動物愛護の世界的基準であるAAALAC(国際実験動物管理公認協会)の認定を日本企業として初めて取得しました。欧米では非臨床試験受託企業のほぼ100%がAAALACを取得しているのに対し、国内では一部の動物愛護団体が動物実験自体に反対する声明を出すなど、動物愛護についての認識はまだ低いといえます。
A: イナリサーチはAAALAC認定の国内第一号です。認定を取る前、海外のあるメーカーから、取れそうだった案件を取り逃した経験があります。彼らからすると、たとえ品質面で納得できたとしても、AAALACの基準を満たしていない企業には発注できない、と。欧米ではそれほどセンシティブな問題なんですね。海外での新規開拓にあたって、動物愛護は真っ先に考えなければならないテーマの一つです。我々はAAALACの基準を遵守することで、実験動物の取り扱いや適正管理を徹底しています。
Q: 上場前説明会で、「ブドウの実を生らしたい」と言っていましたが。
A: ブドウにはたくさんの実がありますね。単なる「実験屋」では、生き残ることはできない。非臨床試験をしていく中で、ビジネスのシーズ(実)を見つけ、提案していく企業でありたい。実の中であるものは大きくなり、あるものは消えていく。多くのベンチャー企業は、たったひとつの実で大きくなろうとするから、非常にリスクが高いのです。企業は持続成長が前提です。イナリサーチにも私以下、約300名の従業員がいます。私たちは、非臨床試験を核にし、多くの実を生らして安定成長を持続させていきたいと考えています。
【中川社長プロフィール】中川博士(なかかわ・ひろし)。信州大学農学部卒。実験動物の開発・研究企業に勤務後、1974年にイナリサーチ設立。趣味はゴルフと、自然豊かな伊那市の散策
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら