英国のEU離脱、まだ実現しない「本当の理由」 メイ首相が国民投票を覆す可能性も残る

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が、EU離脱後のハード離脱派もソフト離脱派も、重要な点を見逃しているように思われる。離脱のための協定と、その後の関係を定める協定(たとえば英EU自由貿易協定)が同時に締結される保証は、何もない。離脱手続きを定めるEU条約の第50条には、「EUとの将来の関係のための枠組みを考慮に入れ、相手国と離脱のための取り決めを定める協定を交渉して、締結する」とある。異説もあるが、英国は離脱した後に初めて、EUとその後の関係を取り決めることができるのだ。

英国に居住するEU市民約300万人の権利(労働許可や社会福祉など)と、EUに居住する英国市民約200万人の権利を、EU離脱後にどうするか。EU予算(多年度枠組み)から、英国をどのように分離するのか。これらについて英国とEUは、2017年3月に予定されている離脱通告後から2年以内に、離脱協定をまず結ばなければならない。それには経過措置や暫定取り決めも含まれることになる。

その後初めて英国は、ハードな離脱とソフトな離脱のどちらかを達成すべく、EU側と交渉しなければならないのだ。少なくともEU側はそう考えている。ちなみにEUとカナダの自由貿易協定の交渉には7年を要した。

メイ首相抜きで開いたEU首脳会議

他方、EUでは、そのようなメイ政権内の路線対立をよそに、昨年12月15日にEUの首脳会議である欧州理事会がメイ首相抜きで開催され、「単一市場へのアクセスには、4つ(人・物・資本・サービス)の自由移動をすべて受け入れる必要がある」と表明した。この点で妥協の余地はないように思われる。離脱協定でハードな離脱をいったん行った後、ソフトな離脱を達成することなど、英国にとっては圧倒的に不利な交渉となろう。

その間、外国企業の撤退や投資の減少により、英国は深刻な景気後退と雇用不安に直面するかもしれない。英国にとって唯一有利な交渉カードは、EU離脱に共通安全保障・外交政策も含まれるため、EUに対して安全保障協力を約束することだろうか。トランプ次期米国大統領の対NATO(北大西洋条約機構)政策の不透明性や、ロシアの脅威などによって、欧州の安全保障環境が悪化しているからだ。

もっとも、英国にとって最善の策は、トゥスク欧州理事会常任議長が述べたように、「ハード・ブレグジットに代わる唯一真の選択肢は、ブレグジットをやめる」ことである。離脱した後になってEUに復帰しようとしても、改めて加盟申請をして交渉しなければならない。単一通貨や、人の移動の自由を定めたシェンゲン協定からオプトアウト(参加拒否)したり、予算還付制度が認められたりすることは、まずないだろう。それこそ英国にとって屈辱的な選択である。

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