英国のEU離脱、まだ実現しない「本当の理由」 メイ首相が国民投票を覆す可能性も残る

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英国はこのままEU離脱に突き進むのだろうか。それとも、国民投票の決定を覆し、EU離脱を回避する可能性はあるのだろうか。そのヒントは冒頭で述べた、国民投票の問いかけにある。

国民はEU残留か離脱かのみを単純に選択するもので、どのような条件で離脱するのかは何も示していなかった。その点を突き、下院の解散か、再度の国民投票が行われたら、離脱回避の民意が示されるかもしれない。

しかしメイ政権は、再国民投票の可能性を否定している。また現行の選挙法では、次の総選挙は2020年5月。内閣不信任決議案が可決するか(議員の過半数で成立)、あるいは全議員の3分の2以上の多数決で決定する場合を除き、早期解散はできない。もしもメイ首相が今年3月末に離脱通告を行うと、2年間の交渉期限は2019年3月中までとなり、離脱協定が成立しなくても英国のEU離脱が決まってしまう。

離脱通告を遅らせれば、総選挙で民意を問える

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しかし、である。少なくとも2018年5月まで離脱通告を遅らせるならば、次期総選挙で離脱条件の民意を問うことができる。

そこで重要な意味を持つのが、昨年11月の英高等法院がミラー判決において、離脱通告には「議会の承認が必要」とされるとしたこと。この判断が最高裁判所でも維持されれば、メイ首相がEUに離脱通告するには、上下両院の承認を待たなければならない。上下両院の意思が食い違う場合、下院の意思が優越するものの、上院(貴族院)は1年間だけ、法案の通過を遅らせることができる。上院の多数派はEU残留派とも言われている。つまり、仮に議会の承認が当初の予定より大幅に遅れるならば、次の総選挙で今度こそ”離脱条件”が争点となり、民意がEU残留にシフトする可能性もまだ残されているのだ。

いずれにせよ英国は、未知の領域に踏み出すことになる。2017年3月末までにメイ首相が実際にEUに対し離脱通告するのかどうか。英国でもう一度「まさか」が起こるかもしれない。

庄司 克宏 慶應義塾大学法科大学院教授(EU法・政策)

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しょうじ かつひろ / Katsuhiro Shoji

慶應義塾大学法科大学院教授(EU法)。ジャン・モネEU研究センター所長。ジャン・モネ・チェア。日本EU学会理事。

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