20代女性を虜にするアパレルブランドの正体 マッシュホールディングスは何がスゴいのか

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「人脈がないからこそアパレルに参入した」と話す近藤社長(撮影:今井康一)

面白いのは、経験や人脈が何もないところからスタートしたことだ。近藤社長をはじめ、スタート時のメンバー3人は全員がアパレル未経験者。無謀にも思えるが、近藤社長は「何も知らないまっさらの状態のほうが、新しいことができるという根拠のない自信があった」と説明する。

それでも未経験の壁は、思いのほか厚かった。最初の路面店は、卸というビジネスモデルを知らなかったこと、商業施設に出店するノウハウがなかったがゆえの選択で、高い勉強料を支払うこととなった。丸井への出店も、個人的に付き合いのあった生命保険の営業担当者に、担当部長を紹介してもらったから実現できたことだ。

なんだか行き当たりばったりのようにも思えるが、近藤社長が当初から大切にしているのは、目の前に現れた壁は自分たちの力で考えて乗り越えること。後述する中国事業でも一貫しているこの姿勢は、同社の成功の大きな要因となっている、と私は見ている。あえて茨の道を選択し、茨を糧にすると言えばいいだろうか。

若い女性の心をつかむ3つの戦略

その後、同社はブランドや業容を破竹の勢いで拡大。現在、ファッション事業ではスナイデルのほか、“大人のデザート”をコンセプトにモコモコ素材のルームウエアを提案する「ジェラートピケ(gelato pique)」、ヴィンテージの要素を現代的にアレンジした「リリーブラウン(Lily Brown)」、モードを日常に落とし込んだ次世代のビジネススタイルを提案する「フレイアイディー(FRAY I.D)」など9ブランドを展開する。どれもコンセプトは明快で、お互いを食い合うことなく、若い女性の間で支持を広げているのが特徴だ。

なぜ同社だけが若い女性のハートをとらえているのかを分析すれば、①現代の若者のお財布事情に合った価格戦略、②価格に対して価値の高い商品を供給していること、③女性が女性のためにデザインしていること――の3つを実直に実行していることに尽きる。ブランドというと「歴史がありクオリティが高く高価なもの」と定義しがちだが、近藤社長は「若い女性に手が届く価格帯のブランド」を作ることを目指している。

「今の若い世代は、私たちの頃とは“投資の幅”がまったく違います。お小遣いを配分するセグメントが増えすぎて、昔みたいに洋服に一極集中することは不可能なんです。今はいい服を着るより、オーガニックのジュースを飲み、ヨガで体のバランスを整えるほうが、価値があるとされる時代。ハイブランドのビジネスは今後も残ると思いますが、それとは別の『先進国の人たちの平均年収に対するアプローチ』が、これからのブランドビジネスには欠かせません」

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