「カストロ後」のキューバを襲う変化の荒波 革命の理想を貫いた国はどこへ向かうのか
軍服姿に長いあごひげ。熱のこもったパワフルな演説。キューバを象徴するカリスマ指導者として知られたフィデル・カストロ前国家評議会議長が、11月25日、90年の生涯を終えた。
サルサミュージックや野球、ラム酒、そして陽気でフレンドリーな国民。日本人にとってキューバといえば、こんなイメージだろうか。が、1959年のキューバ革命後、フィデル氏らの指導のもと社会主義を貫いてきたキューバは近年、激変期を迎えている。8年前にフィデル氏が「引退」した後は、徐々に経済改革を推進。昨年は、54年ぶりに米国との国交が正常化し、世界を驚かせた。その最中での「精神的指導者」の喪失は、どんな意味があるのだろうか。
静まり返ったキューバの街
「家族や恋人のように、大切な人を失ったような衝撃。心にぽっかり穴があいたよう」。首都ハバナに住む、ウェイターのロドリゲスさん(37)はこう語る。
実弟のラウル・カストロ国家評議会議長が、テレビを通じ、震える声でフィデル氏死去のニュースを伝えた翌朝。いつもは陽気な笑い声や音楽が鳴り響く、キューバの街は静まり返っていた。
体調不良を理由にリーダーの座を退いてからもフィデル氏は、共産党の機関紙「グランマ」に舌鋒鋭い政治論評を寄稿したり、つい1週間ほど前まで、世界各国の要人と世界情勢についての意見を交わしたりして、存在感を保ってはいた。しかし、すでに「フィデル氏の影響力は弱まっていた」と、長年に渡ってキューバを取材してきたジャーナリストの工藤律子氏は説明する。それゆえフィデル氏亡き後、「国内で急激な変化が起こるとは考えにくい」という。
「フィデル氏は『革命の象徴』ではあっても、現在のキューバの政治、経済政策に実質的な影響を与えているわけではない」(工藤氏)
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