遠藤憲一「コワモテ」なのに好感度抜群の理由 日本一に上り詰めても謙虚で手を抜かない

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また、自虐話のネタは遠藤さんのように、相手が関与しないものや過去の出来事を選びたいところ。安心して笑える自虐話こそが、「本当に伝えたい」熱血話をより引き立ててくれるのです。

遠藤憲一と上杉景勝がオーバーラップ

今年6月、放送文化に貢献した番組や個人を表彰する「第53回ギャラクシー賞」贈賞式が行われ、遠藤さんは俳優としてただ一人「個人賞」に輝きました。つまり、「日本人俳優のトップに登り詰めた」とも言えるのですが、ここでも遠藤さんは「素は気の弱い男です。こんな顔してるけど、逆ですからね」と自虐話。

続いて、「民王」で共演した菅田将暉さんからお祝いのメッセージが寄せられると、「この一年、大活躍した菅田くんがもらった方がふさわしいのでは?」と謙遜しました。そんな遠藤さんを見た会場の人々は、「自分の晴れ舞台なのに、2回り以上年下の後輩を立てるなんて……」という、どこまでも謙虚な姿に感動していたのです。

さらに先々月、某番組で遠藤さんが私あてに名指しのメッセージをくれる、という意外な出来事がありました。私のようなコラムニストに対して、「いつも作品をほめてくださってありがとうございます」と画面越しに頭を下げてくれたのです。なぜ遠藤さんは、引く手あまたの人気俳優になってなお、これほどまでに謙虚さを持ち続けられるのでしょうか。

個人的には、「『真田丸』の上杉景勝にそのヒントがあるのでは?」と感じています。遠藤さんは景勝を演じるにあたって、「力はないですが、義を通そうとする心の根っこだけは、何とか上杉謙信を受け継ぎたい。必死な男を演じよう、というのだけは決めました」と語っていました。

遠藤さんはオファーが途絶えない現在でも、「どの作品もオーディションだと思って手を抜かずにやっている」「台本を毎日読み込んで頭にたたき込んでおく」そうです。「自分の無力さを自覚している」「先人の道を引き継ぎ必死に戦う」姿は、景勝とうりふたつ。真田信繁(幸村)を見つめる厳しくも優しいまなざしも含め、遠藤さんと景勝がオーバーラップするのは私だけではない気がします。

一年中ずっと出続けているのに、まったく飽きられることのない、私たちの“エンケンさん”。「どの役も『あっ、エンケンさんだ』と思うけど、ちゃんと違うエンケンさんに見える」から不思議ですが、それも長年培ってきた引き出しの多さによるものでしょう。

あまりの忙しさに体調面の心配をしたくなりますが、エンケンさんは「生涯現役」が似合う俳優。作品に向き合える心身の健康さえあれば、この先もずっとその演技で私たちを楽しませてくれるはずです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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