貧困家庭の高校生が乗り込む「泥舟」の悪循環 親のために始めた「JKビジネス」にはまる子も

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家に毎月3万円生活費を入れるために必死になってバイトをし、授業中はいつも寝ている生徒。もっと母親にたくさんのおカネを渡したいとJKビジネスの世界にはまり込んでしまった生徒。自分の分だけではなく弟の学費も稼ごうとバイトのシフトを目いっぱい組んで、ついに高校に来なくなってしまった生徒。義父から性的虐待を受けながらも、母を苦しませたくないと話せなかった生徒。家族のためと我慢して頑張ったのに、結局、自分を犠牲にしている子どもが、たくさんいる。

高校卒業後の進路でも、親や家族のために自分の夢を犠牲にしなければならない生徒が少なくない。世間は、勉強の得意な生徒が大学や専門学校に進学し、勉強の苦手な生徒が就職すると勘違いしているかもしれない。しかし「教育困難校」では、高等教育を受けさせることが経済的に可能な家庭の生徒が進学し、そうでない生徒が就職するという、ある意味、単純な図式になっている。そこでは、生徒個人の学校の成績や潜在的能力、そして本人の「本音としての」希望は優先されない。

つながりがない、ということ

「教育困難校」に通う生徒の家庭を見て、もうひとつ気づくのは、どの家庭も親族や地域とまったくと言ってよいほどつながりがないという点だ。不安定な生活を送ってきたため転居を繰り返し、自治会などの地域コミュニティに参加したことのない人や、何かしらの理由で実家を飛び出し、自身の親兄弟と音信不通になった人が、「教育困難校」に通う生徒の親になっている印象がある。彼らはまさに、「つながり格差」社会の下部におり、さらに、公的援助などの必要な情報も届かない「情報格差」社会の下部にいるのである。

何かあっても、相談したり、頼ったりする人が周囲におらず、家族の自助努力と自己犠牲で何とかしのごうとする。外の世界に目を向けようとはせず、外の世界からも気にもされず、自分の「家庭」といわれる狭いスペース内に家族がひっそりといて、もろい「家族」の外枠をなんとか維持しようとしている。

そんな、「教育困難校」に通う生徒たちの家庭は、厳しい社会の濁流の中で、乗っている者が必死にひびを繕いながら沈まないようにしている、小さな「泥舟」のように、筆者には思える。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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